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シスター三木の創作童話

心はふしぎな愛のかたち

ノブヨちゃんと家族

 「心はふしぎな、心はふしぎな、愛のかたち、心はふしぎな、心はふしぎな、愛のかたち・・・」
 大学生のマキオ君が歌っているのです。同じところばかり歌っています。妹のノブヨちゃんがいいました。
 「マキオ兄さん、その歌、前の方もあるんじゃないの」
 「あるよ、あるさ。だけど、むつかしいの。一回や、二回でおぼえられないの。それにさ、ここんとこだけでいいの、ぼくには」
 語尾を強めてマキオ君が答えています。
 「ははん、そう、わかった」
 「なにがわかったのさ、困っちゃくれてるぞ、こいつ」
 「ねえ、マキオ兄さん。心は、ふしぎな愛のかたちって、どんなかたち」
 「うーん、そうだな―まっ赤なハートのかたちだ」
 「そう、やっぱり・・・」
 「こいつ、またやられた。まあ、いいや、とにかく、まっ赤なハートだよ。まっ赤なね」

 マキオ兄さんは、ウインクをすると、ノブヨちゃんの鼻先を指で、ぱちんとはじいて階段をおりていきました。
 『ふん、これはおもしろい。お姉さんにもきいてみよう』

 好奇心でいっぱいのノブヨちゃんは、ちょっとおませな四年生。
 「だあれ、だまって入ってこないで、ノックしてちょうだい。親しいなかにも、れいぎありっていうでしょう。ノブヨは、すぐ忘れるんだから、それでなにか用なの」
 「あのね、お姉さん。心は、ふしぎな愛のかたちって歌ってる」
 「知ってるわ。それが、どうかしたの」
 「うん、ちょっとね。お姉さんの心のかたちって、どんなかしら・・・ちょっときいてみたかったの」
 「へんな子ね、きゅうにそんなこといって」
 「だってマキオ兄さんの心は、まっ赤なハートですって」
 「そりゃそうでしょうよ。あのひとたち、うまくいってるんだもの。でも、まっ赤なハートなんて、ムードなしね。
第一、色彩感覚ゼロよ。わたしのは、うすいピンクのハートよ。ただのピンクじゃないの、デリケートなの」
 エミ子姉さんは、目を細めて、うっとりした顔でそういいました。

 ノブヨちゃんは、“やっぱり”と思いました。というのは、マキオ兄さんは、目下恋愛進行中、エミ子姉さんは、まだ片思いといったところだったからです。
 「用ってそれだけ。くだらないことをききにくるのね、この子は。もういいでしょう」

ノブヨちゃんと家族

 エミ子姉さんの雲ゆきがわるくなりました。“はやく逃げなくちゃ”ノブヨちゃんは、さっと、ドアから消えました。そしてこんどは、お店で働いている松村さんにもきいてみようと思いました。松村さんは、ケースの上を片づけながら答えてくれました。
 「そうだなあ。ぼくの心のかたちって、海だ、広い広い大海原だ」

 ノブヨちゃんは、“ああ、そうか”とわかりました。ノブヨちゃんの家のお店につとめている松村青年は、ヨットクラブの会員だったのです。そのとき、ちょうどお隣の田中さんがやってきました。電池を買いに来たのです。ノブヨちゃんは、この田中さんにもきいてみました。
 「ぼくの心のかたちって、空だよ。高い高い空だ。小鳥が自由にとんでる、あの青空だ」

 田中さんは、二浪中でした。受験地獄からはやく解放されたかったのです。田中さんが帰ったあと、こんどは松村さんがノブヨちゃんにききました。
 「ところでノブヨちゃん。ノブヨちゃんの心のかたちって、どんなかたちのなの」
 「うーん。わたしの・・・うーん、わかんない」
 「そうだろうな。なんたって、ノブヨちゃんは、まだ、こども」

 松村さんにからかわれたノブヨちゃんは、口びるをつきだして、“イーダ”をしました。でも、ノブヨちゃんは、困って考えていました。
 『わたしの心のかたちって、なにかしら』

 ノブヨちゃんは、お星さまが好きでした。だから、星のついた消しゴムとかバックとか星のびんせんなどなど、星のついたものを集めていました。ノブヨちゃんは、夜、おふとんに入ってからも考えていました。
 「そうだ! わたしの心のかたちって、お星さまのかたちよ。わたしお星さまが好きだもの。ああよかった。あした松村さんに教えてあげるわ」
 心のかたちをみつけたノブヨちゃんは、安心してねむりました。

 あくる日、ノブヨちゃんは、学校から帰ると、すぐ松村さんにいいました。
 「わたしの心のかたちはね、お星さまなの。なぜかあててごらんなさい。あしたまでまってあげてもいいわ」

 あっけにとられている松村さんに、“じゃあね”というと、うれしそうに遊びにでかけていきました。松村さんは、笑いながらいいました。
 「いいなあ、こどもは、前途洋々だ。まったく、希望の星だよ」

 ノブヨちゃんは、スキップをしながら、
 「心はふしぎな、心はふしぎな、愛のかたち」って、口ずさんでいました。


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