home>シスター三木の創作童話>お宿を どうぞ
山のてっぺんに、大きな木の株がありました。山の動物たちは、この木の株のまわりにあつまって、おしゃべりするのが大すきでした。その日も、きつねとうさぎ、くまとりすがあつまって、はなしに花を咲かせていました。うさぎが、いいました。
「あのね、とてもきのどくなはなしを聞いたのよ。イエスさまがね、こうおっしゃったんですって。“きつねには、ねぐらがあるけれど、わたしには、やすむところがない”って」
「まあ、それ、ほんとう」
「ニュース報道班のカラスがいうんだから、ほんとうだよ」
ときつねがこたえます。そこへ、カラスがやってきました。株のまん中におりたカラスをかこんで、動物たちは、なにか新しいことが起こったのでは・・・と息をのんでカラスの口を見つめていました。
「きょう、この山に、イエスさまが、のぼってこられます」
「へえ、それはたいへんだ。でも、うれしいなあ。さっそく、イエスさまのお宿を、じゅんびしなくちゃ」
「まあ、すてき、ぜひ、わたしのところに」
「あら、りすさんの家は、木の上でしょう。ちょっと無理よ。ねえ、わたしのところにおまねきしたいわ」
山の村長さんのくまが、いいました。
「くじ引きできめましょう」
くじは、きつねにあたりました。きつねの親子はうれしくて、ふといしっぽをふくらませ、とびあがってよろこびました。それから、動物たちは、みんなできつねの家の大そうじをしました。新しい枯れ草をはこんだり、落ち葉をあつめて、イエスさまのベッドづくりをしました。
夕方になって、お日さまが、西の山の向こうにかくれるころ、イエスさまは、お祈りをなさるために、ひとりで山にのぼってこられました。イエスさまは、動物たちの木の株に腰をおろされると、目を天にあげて、お祈りをはじめられました。のぼりはじめた月のまん中に、イエスさまが、お入りになったように見えました。しばらくすると、イエスさまのいおでを、まちかねていたきつねの親子が、やってきました。
「コン、コン、イエスさま、こんばんは。おむかえにまいりました。今夜は、わたしの家でお休みください。ぜひ、どうぞ。おねがいします」
イエスさまは、ひと晩中、お祈りをなさりたくて、山にのぼっていらっしゃったのですが、きつね親子のしんせつを、ことわりきれなくて、きつねの家に、おいでになりました。イエスさまが、きつねの家にお入りになったとき、きつねは、びっくりしました。じぶんたちの家が、大きく広くなっていたからです。イエスさまは、つぶやくように、おっしゃいました。
「ああ、なつかしいにおいだ。わたしが赤ちゃんだったときの、においだ」
イエスさまは、動物たちがこしらえた、枯れ葉のベッドに横になると、すぐ、お休みになりました。とってもおつかれになっているようでした。山の動物たちは、きつねの穴の入口にあつまって、ねむっておられるイエスさまを見て、安心して帰っていきました。きつねたちは、穴の入口で、休みました。
朝はやく、きつねがめをさましました。それなのに、イエスさまは、もう落ち葉の上には、いらっしゃいませんでした。
「あれ、イエスさまが、いらっしゃらない」
東の山が、ほんのりと赤味がかっています。きつねは、イエスさまがお休みになっていたところに、大きな袋がおいてあるのに、気がつきました。中には、木の実がいっぱい入っていました。きつねは、大声でいいました。
「イエスさまのプレゼントだよ! みんなあつまれ!」
いつもの木の株の上で、きつねは、みんなに、イエスさまからのプレゼントを、わけてやりました。それは、ふしぎな木の実でした。食べても、食べてもなくなりませんでした。おかげで、その年の冬は、山に雪が降っても、動物たちは、食べ物に困るということがありませんでした。