home>シスター三木の創作童話>子ぎつねコンと子ぎつねコン
広い高原の、むこうとこっちに、ひとりぼっちのきつねが二匹、はなればなれに住んでおりました。おたがいに、会ったことはありません。どちらとも、この高原に、自分がひとりぽっちだと、さびしく思っていたのです。
高原には、人間たちが、よく遊びにきました。東の原にいる子ぎつねコンは、この高原で、楽しそうに遊ぶ人間の家族づれを見て、うらやましく思っていました。
「いっそ、人間に化けて、友達になってもらおうか」
西の原の子ぎつねコンも、同じことを考えていました。
「かわいい女の子に化けたら、なかまに入れてくれるかしら」
東の原と西の原の子ぎつねは、おじいさんから教えてもらった“化けの術”を思い出しながら、化けのれんしゅうをしました。
「男の子になりたい! コン」
「女の子になりたい! コン」
とうとう二匹とも、何度も何度も失敗したあとで、やっと、化けられるようになりました。
東の原のコンは、いいました。
「ちがうんだな、おじいちゃん。ぼくは、ジーンズの男の子に化けたいのに!」
西の原のコンも、いいました。
「おばあちゃん、こうじゃないのよ。ほら、あそこにいる、あの女の子みたいに、スカートを、はきたいのよ」
何回やっても、だめでした。だって、東の原のコンと、西の原のコンに、“化けの術”を教えてくれたのは、明治生まれの、おじいちゃんぎつねと、おばあちゃんぎつねだったのです。もし、おとうさんぎつねかおかあさんぎつねが、教えてくれてたら、もうすこしちがっていたのかもしれません。
東の原のコンは、すすきのすそもようのきものをきた、昔の若者に、西の原のコンは、われもこうの花もようのきものをきた、町むすめにかわっていたのです。
東の原のコンは、がっかりしていました。
「こんなの、おしばいじみてて、おかしいよ。友達になんか、なってくれるもんか」
西の原のコンも、泣きべそ顔で、いいました。
「いまどき、こんな髪の女の子が、こんな高原にいるってことないもの。これじゃ、きつねが化けたってこと、すぐバレちゃうわ」
薄ぐらくなった高原に、きものすがたの二人が、浮かびあがりました。二匹とも、さびしくうなだれて、もとのすがたにもどるのを忘れてしまっていたのです。
東の原のコンが、先に気づきました。
「あれっ!きものをきてる」
「あらっ、へんね、あの子。あんなきものをきて、きっと、きつねなのね。この高原に、きつねがいたのよ。よかった! きれいに化けたのね!」
大きな月が、山の端から離れて、いまにも濃いブルーの大空に、泳ぎ出そうとしていました。
二匹の子ぎつねたちは、おたがいの後ろからふさふさしたしっぽが出ているのに、気づいていました。
「うふっ!」
「うふふ!」
若者は、きものの袖で、口をおおって笑いました。町娘も、たもとで顔をおおって、笑いをかくしました。
子ぎつねたちは、“人間ごっこ”をつづけてもいいなって、おたがいにそう思っていました。それほど、若者は、美しく、町娘は、かれんでかわいかったのです。
すすきの穂と、われもこうの花が、入り乱れて咲く高原を、秋風がなでて通ります。
二匹の子ぎつねの耳としっぽが、すすきとわれもこうの間に、見えかくれしています。
遠くに、人間たちの楽しそうな声が、きこえてきました。
子ぎつねたちは、顔を見あわせて、にっこり笑いあいました。そして、いっしょにいいました。
“もう さびしくなんかないもんね”って。