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アレオパゴスの祈り

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アレオパゴスの祈り 2009年3月7日


ミモザ

2月25日の「灰の水曜日」から今年も、四旬節と呼ばれる季節に入りました。四旬節とは、イエス・キリストの受難と死を思い起こしながら、イエスの復活といのちの喜びにあずかる復活祭前の準備の40日間を指しています。もともとは復活徹夜祭に洗礼を受ける人たちの準備の期間として起こりました。また、洗礼を受ける人たちだけでなく、教会全体が復活祭をふさわしく迎えるために、祈りと断食をする習慣も初期の時代から始まりました。

この四旬節中の3月25日には、神から大天使ガブリエルをとおしてマリアに、救い主の母になること告げられた“神のお告げ”の祭日が、祝われます。みなさんもよくご存じのように、この聖書の場面は、受胎告知として知られ、フラ・アンジェリコやエル・グレコなど多くの画家たちが題材として選び、天使とマリアをイメージして描かれた傑作を残しています。今晩のアレオパゴスの祈りでは、天使によって神からのメッセージを受けられたマリアに焦点をあてて祈ってまいりましょう。

今晩も、一人ひとりの願いとともに、自分の周りにいる、祈りを必要としている人々のことを思いながらささげましょう。隣人の苦しみに対して無関心でいることなく、痛みを共感できますように。後ろでローソクを受け取った方から、祭壇にお進みください。祭壇の上のハガキをおとになって席にお戻りください。

新約聖書の中には、マタイによる福音書とルカによる福音書にマリアが聖霊によって身ごもったことが書かれています。マタイ福音書では、マリアのいいなずけであったヨゼフに主の天使が夢の中に現れて事の次第を告げ、ルカ福音書では、大天使ガブリエルがマリアのもとに神から遣わされて、救い主の母となるメッセージを伝えたと記されています。ここではルカによる福音書を聞きましょう。

ルカによる福音書 1.26~38

6か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。
ダビデ家のヨゼフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」
マリアはこのことばに戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。すると天使が言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」
マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。」あなたの親類のエリザベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう6か月になっている。神にはできないことは何一つない。」
マリアは言った。「わたしは主のはしためです。おことばどおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。
 

(沈黙)

マリアは、ナザレのガリラヤという町、現在のイスラエルに、父ヨアキムと母アンナの子どもとして生まれました。マリアの両親については、聖書や正典には記されていませんが、2世紀ごろに成立した新約聖書外典の「ヤコブの原福音書」や中世の「黄金伝説」に基づいて、伝承として伝えられています。

「ヤコブの原福音書」によれば、ヨアキムとアンナは、毎年エルサレム宮殿への参拝を欠かすことのない熱心で信心深い夫婦でした。しかし、2人には結婚して20年目になっても子どもがありませんでした。

ある年、ヨアキムに子どものないことを知った祭司が、子孫を残す神への義務を怠っているとし、子どもがないことを神の怒りの現れであるとして、ヨアキムのささげものを受けつけませんでした。ヨアキムとアンナは深く悲しみ、ヨアキムは荒野で40日の断食をして痛悔し、子どもを授かることを祈ると共に、もし授かったら子どもは神にささげることを誓いました。すると天使が現れて、ヨアキムの祈りが聴き入れられたことを告げ、アンナが老齢であったにもかかわらず女の子を身ごもりました。これがマリアでした。マリアが3歳になると、2人は約束どおり彼女を神殿に連れて行きました。マリアは両親と離れて他のおとめたちと一緒に神に奉仕する神殿の生活に入ったと言われています。

14歳を迎えるころ、神殿で仕えていたおとめたちは、結婚のために実家に帰るように告げられ、おそらくマリアも実家に帰っていったと思われます。ここに突然天使が現れて、「おめでとう、恵まれた方、主があなたとともにおられます。」(ルカ1.28)と告げます。全能の神が、名もないおとめを選んで、そこから全世界に至る救いのわざを始めようとされたのです。神は、マリアの同意を求めます。聖霊によって子どもを宿すということの意味が、14歳のマリアにはわからなかったでしょう。どうしてそんなことができるのだろうか、というマリアの自然な問いに、天使は、「神にはできないことは何一つない」と告げます。マリアはそれを聞いて答えます。「わたしは主のはしためです。おことばどおりになりますように」(ルカ1.37~38)これは、まさに神を信じる人の答えでした。自分には理解できないこと、将来に予測がつかないことであったとしても、ただ神の力と、決して誤ることのない導きを信じ、神のお望みが行われることを望むこと、そのために自分を差し出していくこと、このマリアの答えは、神の恵みに生かされた信仰が現れています。彼女は、救い主の母として苦しみの中で、イエスとともに十字架の道を歩み、救いの業にいちばん協力した女性でした。

その後、新約聖書には、マリアのことは多くは語られていませんがいくつかの場面に登場しています。12歳のイエスがエルサレムの神殿を訪れたとき、イエスが水をぶどう酒に変える最初の奇跡を行ったカナでの婚礼のとき、また、イエスが十字架につけられ殺されるときなどです。マリアは、イエスが昇天された後、使徒たちと一緒に生活したと言われています。5世紀から、多くのキリスト信者たちが、マリアが生涯を通じて処女であったことを信じるようになりました。

1854年、教皇ピウス9世は、彼女が、原罪に汚れることなくこの世に誕生した、“無原罪の御宿り”であると宣言し、1950年、教皇ピウス12世は、信仰箇条として「神の無原罪の御母、終生処女であるマリアは地上の生活を終えて、霊魂と同時に身体をも天の光栄に上げられた」と、つまり、“聖母マリアの被昇天”を宣言しました。マリアの死去を記念する伝統は、古く6世紀の東ローマ皇帝マウリキウス(在位582~602年)によって、8月15日に祝うことが定められていたと言われています。マリアは、「今から後、いつの世の人もわたしを幸いな人と呼ぶでしょう。」と自らの預言を成就させ、世界中の人々から信仰の人として敬われています。

『祈りの歌を風にのせ』p.49 「マリアの心」① ②

ムリーリョ
受胎告知 ムリーリョ

カトリックの伝統的な祈りに、「お告げの祈り」があります。大天使ガブリエルが、神からのメッセージをマリアに告げたことばが祈りとなって現代まで伝わっています。この祈りは、主の天使がマリアに告げたという冒頭のことば「天使」に基づいて「アンジェラスの祈り」とも呼ばれています。アンジェラスとは、ラテン語で天使を意味し、具体的には、神のことばを伝えた大天使ガブリエルを指しています。

「お告げの祈り」は、一般の庶民にとても親しみのある祈りでした。そのことをよく表しているのは、19世紀のフランスの農民画家、ミレーが描いた「晩鐘」です。この絵は、バルビゾンの馬鈴薯畑で農作業をする夫婦が、夕方6時の「お告げの祈り」を教会から聞こえる鐘に合わせて祈りをささげている絵です。このアンジェラスの鐘は、教会で一日に3回、朝6時、正午、夕方の6時に鳴らされ、時計のない時代から朝の祈りや夕の祈りのときなどを人々に告げる役割をし、生活に密着したものでした。この鐘を聞いた信徒たちは、胸の前で手を組み、それぞれの場で、大天使ガブリエルがマリアに、救い主キリストの懐妊を告げたときの場面を思い浮かべ、聖母が常にわたしたちをお守りくださるように祈るのです。

ミレーが描いた「晩鐘」は、彼が40歳のときに2年の歳月をかけて完成させた作品です。当時のミレーは、その日食べるのにも困るような生活をしていたと言われています。この絵は、貧しくとも、清く正しく生きようとする敬けんなキリスト教信者の日常が描写され、自らも信仰篤い農家に生まれ、両親を助けるために幼いころから畑に出ていた彼の原点になっている風景と言えます。

「かつて祖母は教会の鐘が聞こえると畑の仕事をやめ、帽子をとって祈りを唱えさせた。それを思い出して描いた」とミレーは子どものころを思い浮かべています。彼は、田舎の夕暮れの遠い鐘の音をこの絵の中で聞かせ、見る人の心を祈りに招き入れようと促しています。

カトリック教会は、大天使ガブリエルをとおしてマリアに告げられたことが実現した神の業に驚きを新たにしながら、長い歴史にわたって今日にいたるまでこの祈りを大切にしています。

「お告げの祈り」をご一緒に唱えましょう。

お告げの祈り
   主のみ使いのお告げを受けて、
   マリアは聖霊によって神の御子を宿された。

    <聖母マリアヘの祈り>
      恵みあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます。
      主はあなたを選び、祝福し、
      あなたの子イエスも祝福されました。
      神の母聖マリア、罪深いわたしたちのために、
      今も、死を迎えるときも祈ってください。アーメン。

   わたしは主のはしため、
   おことばどおりになりますように。
    <聖母マリアヘの祈り>

   みことばは人となり、
   わたしたちのうちに住まわれた。
    <聖母マリアヘの祈り>

      神の母聖マリア、わたしたちのために祈ってください。
   キリストの約束にかなうものとなりますように。

  祈願
   神よ、み使いのお告げによって、
   御子が人となられたことを知ったわたしたちが、
   キリストの受難と十字架をとおして
   復活の栄光に達することができるよう、
   恵みを注いでください。
   わたしたもの主イエス・キリストによって。アーメン。

『祈りの歌を風にのせ』p.35 「主に賛美を」 ① ④

これで今晩の「アレオパゴスの祈り」を終わります。


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