アレオパゴスの祈り
アレオパゴスの祈り 2015年10月 3日
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父と子と聖霊のみ名によって。アーメン。
新しい月を迎えたことを、共に主に感謝いたしましょう。わたしたちが住んでいるこの日本は豊かな自然に恵まれ、秋はそのすばらしさを味わう季節でもあります。そんなわたしたちの国の方向性が大きく変わりつつあります。9月19日午前2時18分、国会で最大の焦点となっていた安全保障関連法が参議院本会議において、与党の自民、公明両党、野党3党による賛成多数で、強行採決されました。安保関連法の成立により、従来の憲法解釈では認められなかった集団的自衛権の行使が可能になり、戦後日本の安全保障は、歴史的な転機を迎えました。この現実に多くの人が疑問を抱き、日本各地で反対の声が高まっています。
日本カトリック正義と平和協議会は、会長である札幌教区勝谷司教様のお名前で、この強行採決に抗議し、安保関連法廃止を求める抗議声明を安倍首相宛に提出しました。安保関連法と集団的自衛権の行使に関して、様々な意見をお持ちだと思います。教会が社会問題にかかわることについて、また日本の司教団が憲法9条に関して、どのように考えているかを聞きながら、この国に住む同じ日本人として、キリスト者として、これからの日本の歩みのために祈りましょう。
わたしたち一人ひとりが心に抱いている意向、祈りを必要としている人々を神様の御手にゆだねて、しばらく思い起こしましょう。
(沈黙)
お祈りしたい意向を心の中にたずさえて、ローソクをささげましょう。
エフェソの信徒への手紙を聞きましょう。(エフェソ4.1~7、11~16)
そこで、主に結ばれて囚人となっているわたしはあなたがたに勧めます。神から招かれたのですから、その招きにふさわしく歩み、 一切高ぶることなく、柔和で、寛容の心を持ちなさい。愛をもって互いに忍耐し、平和のきずなで結ばれて、霊による一致を保つように努めなさい。 体は一つ、霊は一つです。それは、あなたがたが、一つの希望にあずかるようにと招かれているのと同じです。すべてのものの父である神は唯一であって、すべてのものの上にあり、すべてのものを通して働き、すべてのものの内におられます。
しかし、わたしたち一人ひとりに、キリストの賜物のはかりに従って、恵みが与えられています。
そして、ある人を使徒、ある人を預言者、ある人を福音宣教者、ある人を牧者、教師とされたのです。こうして、聖なる者たちは奉仕の業に適した者とされ、キリストの体を造り上げてゆき、ついには、わたしたちは皆、神の子に対する信仰と知識において一つのものとなり、成熟した人間になり、キリストの満ちあふれる豊かさになるまで成長するのです。こうして、わたしたちは、もはや未熟な者ではなくなり、人々を誤りに導こうとする悪賢い人間の、風のように変わりやすい教えに、もてあそばれたり、引き回されたりすることなく、 むしろ、愛に根ざして真理を語り、あらゆる面で、頭であるキリストに向かって成長していきます。
朗読された手紙の中で、聖パウロは「人々を誤りに導こうとする悪賢い人間の、風のように変わりやすい教えに引き回されることなく、 むしろ、愛に根ざして真理を語るように」と、信徒たちを励ましています。人間の弱さ、罪深さによって、社会はいつの時代も様々な問題を抱えています。このような問題に教会は、どのようにかかわっているのでしょうか。日本カトリック司教協議会がまとめた、『なぜ教会は社会問題にかかわるのかQ&A』という本から、一部をご紹介します。
教会は、初めから社会の中で共に生活する人々に関心を示し、社会問題に関しては福音書と使徒たちの手紙に基づいて教え、教父たちと中世の学者たちを通してその内容を明確にしてきました。教会が社会問題について発言する最大の根拠は、神の独り子が、限りない愛のゆえに、人類を罪と死から解放するため同じ人間となり、徹底して人々と共に生き、特に死と復活によって人間に神とのつながりと互いのつながりを取り戻させてくださったという事実にあります。教会はこの主キリストのことばと業を福音としてすべての人々にのべ伝える使命を与えられています。その福音化の使命は、福音に「固有の力で人類を内部から変化させ、新しくする」ことにあります。
確かに人間の究極の目的はこの世にはなく、父と子と聖霊の永遠の愛の交わりに加えられることにあります。しかし、教会は、人となった神の子イエスご自身がそうであられたように、人間の共同体としては人類の歴史と社会生活とに深く結びついており、喜びと希望、悲しみと苦しみをすべての人々と分かち合っています。それは、キリストが罪を除いてわたしたちの一人となってご自分をすべての人と一致させ、わたしたち一人ひとりを深く愛してくださったからです。この意味で教会は、キリストが示した神の愛を証しするためにこの世に遣わされています(ヨハネ17.18、20~23参照)。したがって、人々と連帯し共に生きるだけではなく、キリストの福音を告げ知らせ、その精神によって社会を刷新し、そうすることによって人々に奉仕するのです。
教会は、福音を生活によって証しするだけではなく、人間のいのちの尊厳と基本的人権、共通善などにかかわる諸問題を福音と教会の教えに照らして理解し、人々の救いのために必要であると判断するとき発言するのです。
(日本カトリック司教協議会 社会司教委員会・編 『なぜ教会は社会問題にかかわるのかQ&A』pp.13~15参照)
沈黙のうちに、しばらくふり返りましょう。
(沈黙)
わたしたちがそれぞれに与えられた場において、キリスト者としていただいた召命をよく生きることができますように、祈りましょう。
『パウロ家族の祈り』p.47 「自己の召命のためにする祈り」を唱えましょう。
天の父よ、あなたの英知と愛を信じます。
天の国のためにわたしを造り、その道を備え、
忠実な者に約束された報いを与えてくださることを信じます。
わたしを照らし、道を示し、寛大にこれに従って歩む力をお与えください。
御子イエス・キリストと、
女王であり母であるマリアによって次の恵みを願います。
臨終のときには聖パウロのように、
「わたしは、戦いを立派に戦い抜き、決められた道を走りとおし、
信仰を守り抜きました。今や、義の栄冠を受けるばかりです」
と言うことができますように。
広島・庚午カトリックセンターの聖母像
先ほど引用した本から、憲法9条に関する日本の司教団の見解を聞きましょう。
憲法改正が取りざたされるようになってから、賛否両論、いろいろな立場の人が意見を戦わせています。社会で起こることに対して、司教団としてあるいは司教として発言するとき、それは、ある特定の政治的立場を取るのではありません。福音の立場から判断して教会は語るのです。憲法9条について、どの政党がどのような発言をしているか、どういったスタンスであるかといったこととは無関係なのです。
日本国憲法は、その前文と9条によって、世界にあっても類まれなほど明確に、個人の尊厳(人権)と非暴力によって建設される平和の大切さを訴えています。この思想は、まさに福音そのものと言えます。もちろん、困難な世界情勢の中にあって、その内容を完全に遵守するのは難しいことです。しかし、戦後、まさに一触即発の冷戦時代にさえ9条が変えられなかったことの意義は、平和を目指す国際社会の中で大きな希望となっています。9条について、日本の司教団は、「戦後60年平和メッセージ」の中で次のように述べています。
「教皇ヨハネ・パウロ2世は、聖パウロの教えに従って、平和は悪が善によって打ち負かされるときにのみもたらされる、辛抱強い闘いの成果であることを明らかにしています。軍備と武力行使によってではなく、非暴力を貫き対話によって平和を築く歩みだけが、『悪に対して悪をもって報いるという悪循環から抜け出す唯一の道』なのです。これはガンジーの非暴力による抵抗運動などが示しているように、多くの人々の共感を呼ぶものです。この非暴力の精神は憲法9条の中で、国際紛争を解決する手段としての戦争放棄、および戦力を持たないという形で掲げられています」。
このように司教団は憲法9条の福音的価値を、平和の実現にとって重要なものとして位置付けています。
信徒が個人として、現在の国際情勢と照らし合わせ、9条を変えるべきか否かについて様々に考えることは自由です。しかし、わたしたちが最終的に求めるのは、イエスの非暴力による平和の実現であるということ、それは共通理解であるよう求められます。
(同上書 pp.63~64参照)
しばらく沈黙のうちに祈りましょう。
(沈黙)
『祈りの歌を風にのせ』p.10 「あなたのへいわの」① ~ ③
聖パウロ女子修道会の初代総長であったシスターテクラ・メルロにとって、福音書は、最も好きな本でした。それを読み黙想することが彼女の魂の喜びでした。コミュニケーション手段を用いて福音宣教をすることで、社会がよくなることを願っていました。彼女は、次のように言っています。 「わたしたちがイエスのすべてのおことばを深く理解できたらどんなにすばらしいことでしょう。福音を読むたびに新しい光に照らされ、よりよい人間になってゆけます。福音書が広く読まれ、愛され、それにそって生きられるように祈らなければなりません。現代的手段を用いて、あらゆる家庭に、社会全体に、福音を染み込ませることができるでしょう。この実現のためにわたしたちは祈り、自分の苦しみをささげましょう。そうすれば社会はもっとよくなるでしょう」。 (オルガ・アンブロージ著 アグネス・レト訳、『よい便りの使者』p.190参照)
今月はロザリオの聖母にささげられた月です。武器に頼らない真の平和が世界に実現しますように、特に日本のこれからの歩みのために、聖母マリアの取り次ぎを求めて、ロザリオを一連ささげましょう。
栄えの第5の神秘、「聖母の戴冠」を黙想しましょう。天に上げられた聖母は、御父と御子イエスから天と地の女王として、栄冠をお受けになります。平和の女王である聖母が世界に平和をもたらしてくださいますように、祈りましょう。
主の祈り(1回)、アヴェ・マリアの祈り(10回)、栄唱(1回)
『祈りの歌を風にのせ』p.49 「マリアの心」② ⑤
この祈りの時間にいただいた恵みを感謝しましょう。
(沈黙)
祈りましょう。
恵み豊かな父よ、世界の様々な不正義によって傷つけられ、苦しんでいる人々を心にとめてください。主の愛の光によって、憎しみと暴力の連鎖を断ち切ることができ、互いに理解しあい、受け入れあうことができますように。また、日本をはじめ世界の政治家たちが、国民の声に耳を傾け、真の平和のために働きますように。わたしたちの主イエス・キリストによって。アーメン。
父と子と聖霊のみ名によって。アーメン。
これで今晩の「アレオパゴスの祈り」を終わります。
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