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新世紀ルーツへの巡礼
広い原っぱへ、基礎固めの時
レンガをめぐる訴訟事件
アルベリオーネ神父は、建築用のレンガを、ソルバというレンガ焼きの職人からつけで買っていました。ところが、その代金の支払いが延び延びになったので、たまりかねたソルバ氏は、裁判所に告訴したのです。
この一件を扱った一裁判官が保存していた訴訟記録には、アルベリオーネ神父の人柄が、生々しくにじみ出ています。
「その時、私はアルバ裁判所の弁護士会および検事会の人名簿に登録権を得るため、司法修習生としてテオドロ・ブビオ議員とリカルド・ブルノ弁護士に付いて司法を研究していました。
アルベリオーネ神父が、ソルバ氏に支払うべきレンガの代金1万リラの借金をだまして支払わないと告訴されていたので、私たちはこれを弁護していました。これらのレンガは、今の庭の真ん中にある母院と初期の聖堂の主要な壁をつくるのに使われました。
裁判が行われ、裁判長は言いました。
「アルベリオーネ神父様、ここにおられるソルバさんに借金していることを認めますか?」
「はい、裁判長殿、負債は認めます。また親切なソルバさんが、レンガ代金をつけにしてくださったことに感謝します。」
「それでは、あなたは司祭としてソルバさんに、その借金を返さねばなりません。司祭が人を欺いて支払わないという判定が出たら、つまずきになりますからね……」
「私にはお金がありません。裁判長殿。 必ずお金は残らず返済いたしますので、ソルバさんにお願いです。少し期限を伸ばしてください。それに、またレンガを何千個か貸していただきたいのです。」
貸主のソルバ氏は、アルベリオーネ神父のこのような申し出に、猛然と立ち上がり、彼は、怒りを爆発させ、負債者を刑務所にいれろと要求したのです。
「よくもそのようなことが言えますね。厚かましいにもほどがあります。アルベリオーネ神父様、借金を返さない上に、またレンガを貸してくれと言うのですか。ずうずうしいにもほどがあります。 刑務所に叩き込んでやるから。」
すると裁判長は、「アルベリオーネ神父様、聞こえましたね。 借金を返すか、それとも刑務所に入るかですよ。」
ところが、アルベリオーネ神父は、びくともせずに言ったのです。
「裁判長殿、ソルバさん、私は、さしあたり少年たちのだれかを、いや全員でも、借金の埋めあわせがつくまで、無給で働くように送ることしかできません。それがだめなら、刑務所に行くことをお受けします。そうしたら、私も少し休息できましょう。ずい分疲れていて、立っているのがやっとですから。私の少年たちのことはみ摂理がおはからいくださるでしょう。」
これを聞いた善良なソルバ氏の側が訴えをひっこめ、債権を放棄して決着がつきました。それでも、アルベリオーネ神父は、自分は断食してでも負債を支払う約束をしました。すると、ソルバさんは、わが身に言い聞かせるように、こう言ったのです。
「あの若者たちを引きと取れというのですか。彼らは何ひとつまともなことができないではないですか。かえって私たちは彼らを養い、飢えを満たしてやらなくてはならないことになります。
……私は気が狂っているわけではないのですが、たとえアルベリオーネ神父様が刑務所に入ったところで、私には1銭のお金が戻ってくるわけではないのです。
私の1万リラは、おさらばということです。いいです。裁判長殿、私は告訴を取り下げ、貸し金は、なかったことにします。
しかし、アルベリオーネ神父様、約束してください。あの二輪車で私のところのレンガを2度と取りにこないと。そうでないと私は、棒を取って、レンガだけでなくあなたたちを叩き出しますから。」
「ソルバさん、ありがとう。もうレンガはいただきにまいりません。その上、私が断食してでも1万リラはお返ししたいと思います。」
「いや、とんでもない、そんなこと。神学の先生、それはやめてください。ただでも骨と皮。ハンガーに服がかかっているような様で服が肩にのっかっているじゃありませんか。かまいません。もう、このことはおしまいにしましよう。」
それで全部が、終了したのでしょうか。いやいや。アルベリオーネ神父は、自分の庭の今雑誌の印刷工場があるその所に、はじめてのレンガを焼くためのかまどをつくったのです。
そして、彼は少年たちと一緒にレンガ作りの練習をしたのです。時代遅れのものではあったのですが、少年たちはそれはそれは夢中で働き、ついにソルバ氏の商売の敵になってしまいました。少年たちは自分たちに必要なレンガはもちろん、その地域の建築現場にも売れるほどにたくさん生産し、あのレンガ焼きのソルバ氏と競うようになったのです。
そこで、ソルバ氏はある朝、私の事務所を訪問し、こう言ったのです。
「アルベリオーネ神父様は、私の借金は支払わず、刑務所にも入らない。それは、この私がないものにしたからなのです。
それなのに、そのお礼としてレンガ作りをはじめ、今にも私を倒産させようとしているのです。
あそこの若者たちは、ただ働きをし、安値でレンガの叩き売りをしています。私はどうしたらいいのですか。」
私は、こう言ったのです。
「ソルバさん、あなたは高齢になったのですから、仕事はやめたらいいですね。あと50年生きたとしても、あなたの財産の半分以下も使い尽くせないでしょう。もう少しこうしてあげなさい。アルベリオーネ神父様がレンガをつくって、それを売り、自分の子どもたちを養うだけのパンの代金をもうけさせてあげなさい。
あなたとしても、まさか、あの人たちを物乞いをしに町を回らせたらよいと思わないでしょう。ですから、放っておきなさい。そうしたら天国に功徳を積むでしょう。……この世を旅立たねばならない時には、レンガやお金より、もっと役に立つものですよ。」
それで、ソルバ氏は、考え直してからこう言ったのです。
「アルベリオーネ神父様とかかわったら、借金は支払わず、刑務所にも入らず、競売をするのです。
また、弁護士も弁護士で、私にアルベリオーネ神父様に、感謝すべきだと言うんですね。
しかし、アルベリオーネ神父様は、大したしたたか者ですね。
弁護士さん、さようなら。お薦めの金額は支払いませんよ。」
ソルバ氏は、初めの瞬間はかんかんに腹をたてていましたが、結局のところアルベリオーネ神父が働くのも働かせるのも、彼の少年たちに食べさせるためなのだということに考えが及ぶと、もう放っておいたのです。
「アルベリオーネ神父様とかかわりあうなんて、もうするものか。支払いはしない、刑務所には入らない、商売の敵になる。しかも、弁護士は私にありがたく思えといわんばかりなことを言う! ……それにしてもアルベリオーネ神父様の心臓はたいしたものだ! 」という結論になったのでした。
この訴訟の後、ソルバ氏はあまり長生きしませんでした。氏の死後、ソルバ氏の未亡人は、1925年にアルベリオーネ神父にこのような手紙を書き送っています。
「聖パウロ聖堂建築のために、私は5万リラ分のレンガを来年の春にお渡しいたします。私と亡くなった身内のために、あなたの修道会のお祈りをお願いいたします。」