第9回:補完性の原理
<第1部、第4章、4 補完性の原理(185-191)>
「補完性の原理」、これもまた耳慣れない言葉です。単純に考えれば「補うこと」ですが、実際にはそれ以上の意味合いを含んでいます。それは、単に補うことではなく、相手の主体性を尊重して補うことであり、とくに、両者の関係においてより力あるもの、より上位にあるものに適応される原理です。つまり、より小さいもの、より下位にあるものの主体性や役割を奪ったり、吸収したりしてはいけない、という原理なのです。ですから、「補完性の原理は、社会的に上位にある権力による不正から人々を保護し、このような権力に対して、個人と中間団体が自らの任務を果たすための支援を求めるものです」(187)。
たとえば、ある学校で子どもたちがボランティアを始めたとします。よいことなので、学校としても子どもたちの活動を支援し、さらに子どもたちはPTAにも支援を求めます。これは、補完性の原理に適っています。しかし、支援を求められたPTAが、子どもたちにやらせていてはもどかしいということで、子どもたちそっちのけで活動の主体となってしまうと、子どもたちの主体性と役割を奪うことになります。主体性と役割を奪うことは、人格を否定することです。これは補完性の原理に反します。
より力あるもの、より上位にあるものは、より小さいもの、より下位にあるものを支援こそすれ、決して彼らの存在を否定するような行為をしてはなりません。