第23回:経済(3)
<第7章 経済生活、3 個人による創意と企業による創意>-2
人間の行為がその尊厳に適うためには、自由になされた行為でなければなりません。逆にいえば、人間の行為の自由を制限することは人間の尊厳に反します。これは経済活動についてもいえることです。たとえば、個人経営の小さな工場が発案した企画を国家が取り上げてしまうようなことは、自由な経済活動を制限することになります。それは、その経営者の尊厳を傷つけることです。また、第9回で取り上げた補完性の原理にも反します。もし国家がその発案を評価するのであれば、それが現実のものとなるようにその工場を支援すべきです。小さな工場だからといって、その発案を決して奪ってはなりません。
経済活動においては、個人や小さな会社の発案が大きな成果をもたらすことは稀ではありません。ある一つの発案が成功にいたるまでには資本が必要ですから、当然、利益のことも考慮しなければなりません。費用の問題で断念せざるをえなかった企画もたくさんあるでしょう。そのために、経済的な損失を被った人々もいるでしょう。確かに、個人や集団の自由な経済活動にはリスクもあります。このリスクをどう軽減すかということも一つの課題ですが、それでも、経済活動が人間の行為として自由が保障されること、人間の尊厳を尊重することは、経済活動の発展の基本なのです。人間の尊厳の尊重と経済発展は決して矛盾しないのです。