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 花火降る夏

2000年4月

花火降る夏

  • 監督:フルーツ・チャン(陳果)
  • 出演:トニー・ホー、サム・リー

1998年 香港映画 128分

  • 1999年ベルリン国際映画祭正式招待作品
  • 1999年カルロビ・ヴァリ国際映画祭正式出品
  • 1999年香港金像奨7部門ノミネート

「メイド・イン・ホンコン」に続く“香港返還三部作”第2弾。1997年の香港返還をきっかけに、人生の方向転換をせざるをえなかった人々の物語です。

物語

ガーイン軍曹(トニー・ホー)は、返還前に英国軍香港部隊を解雇され、やくざの弟シュン(サム・リー)の紹介で、ボスの運転手として拾われます。そして、ついに弟の誘いに乗って、いっしょにクビになった部下たちと銀行強盗に手を染めてしまいます。

いくら失業したからといって、親元で当面の暮らしには困らないというのに、正義感も責任感も強かった40前後の男性が、こんなふうに簡単に堕ちていくものなのか、最初は疑問でした。

けれども、ここまで追いつめられたのは、お金のせいではないのがわかったとき、疑問も解けました。主人公や元の部下たちが、なくしていたのは、自分のアイデンティティーでした。長年勤め愛していた「親方イギリス」に寄りかかり、そのぬるま湯の中で、とっくの昔に見失っていたのは、軍人の仮面をかぶった自分ではなく、裸の自分です。

自分が誰なのかわからなくな……、これほど人を不安にさせることはないでしょう。同じような苦しみの中にいる日本の人々の姿も重なって、胸が痛みます。香港では実際に、退役軍人が強盗を計画したケースもあったそうです。

 

さて、そんな彼らのあがきをよそに、街では返還前の式典のたびに、華やかな大輪の花火が、惜しげもなく何百発も打ち上げられます。タイトルどおり、「花火降る夏」なのですが、彼らの目を通して見る花火は、美しくはあっても、晴れ晴れとせず、虚しさだけが残るのです。一瞬の美を心から楽しむことができるのは、帰ることのできるしっかりとした場のある者だけだということでしょうか。

返還後しばらくして自分を取り戻し、地味な仕事を黙々とこなす主人公ガーインの、ラスト近くの姿は、花火の千倍くらい魅力的でした。

フルーツ・チャン(陳 果)監督は、去っていくイギリスを、最後まで何度もユーモラスにからかうのに、北京政府にはできない、……このギャップに、香港の苦悩も感じました。

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