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 リトル・チュン

2000年9月

リトル・チュン

  • 監督:フルーツ・チャン(陳果)
  • 出演:ユイ・ユエミン、マク・ワイファン、ゲイリー・ライ

1999年 香港映画 115分

  • 2000年ロカルノ国際映画祭正式出品
  • 2000年香港金像奨最優秀作品賞・最優秀脚本賞・最優秀助演男優賞・
      最優秀新人賞・最優秀編集賞・最優秀映画音楽賞・最優秀主題歌
      ノミネート

特今回は、フルーツ・チャン監督作品、『メイド・イン・ホンコン』『花火降る夏』に続く三部作の完結編『リトル・チュン』です。

物語

香港の下町、に住むチュンは、9歳にして夢と理想をかなえてくれるのはお金だ! と信じ、「食堂」を営む父を手伝い、せっせとチップ稼ぎをしています。出前先は、やくざ、棺桶屋、売春宿など物騒なところばかりだけれど、チュンはお客さまの受けもよく、電話番から出前まで大活躍。そんなチュンの夢は、<白のたまごっち>を買うことでした。

チュンの家族は、子どものしつけに厳しいお父さんと麻雀に明け暮れるお母さん、すぐ近くに、チュンをかわいがってくれるおばあちゃんとフィリピン人のメイド、アーミが住んでいます。おばあちゃんは、昔、広東オペラの女優でした。香港の大スター ブラザー・チュンと共演したことが自慢で、チュンの名前も香港の大スター ブラザー・チュンから取って、おばあちゃんが付けたのでした。

近所には家族でレストランを経営しているホイおじいさんと息子のデビット、ケニーが住んでいました。おじいさんはやさしいのだけれど、兄のデビットはやくざ、弟のケニーはパンクかぶれ。チュンにとってデビットは、出前をしても代金は踏み倒した上に、ショバ代を払えと脅かしてくる憎っくきヤツ! です。

ある日、「堅記食堂」の求人の張り紙を見て、チュンと同じ年頃の少女ファンが訪ねてきました。子どもは雇えないとおとうさんは断ります。でもチュンは気になってファンの後をつけるのでした。少女は路地裏で皿洗いをして働いていました。興味をもったチュンは、「僕が君を雇うよ」と切り出します。こうしてチュンと少女ファンは知り合います。しかし警察を見ると、おびえて身を隠そうとするファンの不可解な行動が、チャンには気になってしかたがありません。ちょうどそのころ、テレビでは、香港返還を前に密入国した中国人の強制送還の模様が盛んに報じられていました……。

チュンは店の売り物のケーキをこっそりファンにあげていたのですが、そのことがお父さんにバレてしまいます。ものすごくしかられ、たまりかねたチュンは家出を決行します。ところが飛んだとばっちりを受けたのはファンの家族でした。息子を探しに訪ねて来たチュンの父に不法移民である事がバレてしまったのですから。

デビットのレストランでは、おばあちゃんの80歳の誕生パーティが開かれるはずでした。ところが、チュンが家出し行方不明になったことを知っておばあちゃんは、家から一歩も出ようとはしません。そしてその晩、ブラザー・チュンがついに逝去してしまいます。

香港返還を直前に控えたある日、身を隠していたファン一家が、ついに警察に見つかり、強制送還されることになります。はじめて心が通い合った友達、ファンを失うことの意味を知ったチュンは、自転車に乗りファンを乗せたパトカーを猛然と追いかけます……。

 

頑固親父的なチュンの父親を見ていると、何年か前の日本もこんな感じだったのでは?! と思い至り、はたまた、子どもに手を焼くホイおじいさんとその息子デビットやケニーの姿からは、いつの時代にも共通して人が抱いている悩みや問題を思い起こしました。香港のにぎやかな街並みと相まって、日本の過去と現在の様子を一緒に見ているような不思議な感覚を覚えました。

香港の大スターであるブラザー・チュンは、1997年4月、香港返還を見ることなく亡くなるのですが、その前年から、夫人と4人の実子たちの間で遺産相続の争いが起こり、香港のワイドショーを連日にぎわしていたそうです。きっと香港の人々は、返還直前のゴタゴタを思い出すとき、ひとつの時代の象徴として、彼のニュースを重ねて思い出すのでしょう。

香港返還を見ることなくこの世を去ったブラザー・チュンと、淡い恋心を体験して大人への一歩を踏み出したリトル・チュン。同じ名前を持つ2人のバトンタッチが、新旧香港の交替に重なります。

              ☆    ★    ☆

リトル・チュンを取り巻く環境とそこに生きている人々は、社会の波に翻弄(ほんろう)されて生きています。人間の寿命は長くても100年。その間に人間は成長し、人とかかわり、泣いて、笑って、怒って……さまざまな思いを味わって生きていきます。私たち人間が、この地球上に存在できる年月は、地球の年齢からみれば、まるで点のような時間です。しかし今、私たちが生きているのは、長い歴史を通じての「いのち」の営みがあったからです。社会に翻弄される人間、その「いのち」が生きられてこそ、歴史や文化が作られてきたのをあらためて感じさせられました。

香港返還やその時代を象徴する人の死を突き抜けて、たくましく生きる人たちの姿が鮮やかに描かれている作品です。

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