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お薦めシネマ
スターリングラード
2001年4月
ENEMY AT THE GATES
- 監督・製作・脚本:ジャン=ジャック・アノー
- 原作:ウィリアム・クレイグ『Enemy at the Gates』
- 音楽:ジェームズ・ホーナー
- 出演:ジュード・ロウ、ジョゼフ・ファインズ、
レイチェル・ワイズ、ボブ・ホスキンス、エド・ハリス
2001年 アメリカ・ドイツ・英国・アイルランド合作
2時間12分
2時間近い上映時間の間、ズーッと心臓がドキドキしっぱなしでした。
エンディングのタイトルローを見ながら、しばらくこのままでいたいな……、外に出たくないな……、と明るい現実に戻されることを拒否したい気分でした。疲れました、というより、映画の中にどっぷりつかってしまったのです。
タイトルの「スターリングラード」はソ連の都市の名で、第2次世界大戦中のナチス・ドイツとソ連軍の壮絶な戦いの中、第2次世界大戦の戦局を大きくわけるターニング・ポイントの一つとなった戦いです。180日にわたる攻防の末、ソ連軍が勝つのですが、勝利の要因となった射撃の天才、スナイパーとしてソ連軍に実在したヴァシリ・ザイツェフの物語です。スターリングラード(現ボルゴグラード)の英雄記念館には、彼が使っていたライフルが保存されており、60年近くたった今でも彼は国家のヒーローです。
監督は、「薔薇の名前」「子熊物語」「愛人/ラマン」、最近作では「セブン・イヤーズ・イン・チベット」で有名なジャン=ジャック・アノー、音楽は、「アポロ13号」「タイタニック」でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞を受賞したジェームズ・ホーナーです。総製作費は8500万ドル(約100億円)、本当にスケールの大きな映画で、ベルリン映画祭のオープニングを飾りました。
物語
1942年、ナチス・ドイツ軍の大規模な侵攻を受け、ソ連軍は厳しい戦況にあった。最後の砦、スターリンの名をいただく都市「スターリングラード」を奪われるわけにはいかないと、ソ連軍も必死の抵抗を続けている。戦闘訓練を受けていない兵士まで投入されるが、武器は底をつき、ライフルも2人で一丁という状態だった。
軍用列車でスターリングラードに送り込まれた補充部隊の兵士たちは、目の前の光景を見て立ちすくんだ。ボルガ河にはおびただしい数の兵士の死体が浮かんで血の水と化し、市街は瓦礫の山、街はすでに陥落寸前だった。司令部は進軍を指示するが、兵士たちは逃げようとする。後方の治安維持部隊は、逃亡する兵士を容赦なく撃ち、多くの者がその銃弾に倒れる。ソ連軍は死者の数だけが増していった。
突進するヴァシリ・ザイツェフ(ジュード・ロウ)にライフルは支給されず、銃弾だけが手渡された。降り注ぐドイツ軍の銃砲の中、無謀に撃とうとする青年政治将校ダニロフ(ジョゼフ・ファインズ)から銃を受け取ったヴァシリは、離れた場所から次々とドイツ軍将校を仕留めていく。彼はウラルの山奥に住む羊飼いで、動物の目を一発で撃ち抜くため、小さい頃から祖父に射撃を仕込まれたのだった。
「天才のスナイパーでありながら控えめで純朴なヴァシリ、共産党のエリート将校で教養あふれるダニロフ、2人は互いに好感を持ち合い、次第に強い信頼に結ばれるようになる。ライフルを持てば百発百中のヴァシリは、ソ連軍の士気を高めるための宣伝に利用され、ダニロフの書く記事によって英雄にまつりあげられていく。
ヴァシリの名はドイツ軍にまで知れ渡った。次々と将校を狙撃されていくドイツ軍は、ヴァシリを暗殺するため、ドイツ軍きっての狙撃の名手ケーニッヒ少佐(エド・ハリス)をスターリングラードに送り込む。命を狙われていると知ったヴァシリと、罠を仕掛けてヴァシリをおびき出すケーニッヒ。スナイパー同士の計算され尽くした知恵と知恵の戦いがはじまる。
思いを寄せるレジスタンスの美しい女兵士ターニャとヴァシリが愛し合っていると知ったダニロフは、嫉妬のあまりヴァシリをさげすむ記事を書き、さらに彼を陥れる非常な手段を考えるのだった。
ヴァシリが乗っているスターリングラード行きの軍用列車の中からこの物語ははじまるのですが、最初のシーンから、ヴァシリ、つまりジュード・ロウの清らかな目がとても印象的です。この目に表現されているように、次の瞬間の命が保証されていない戦場を背景にしながらも、若者たちの友情と愛、人生の先輩と後輩たちの尊敬と信頼が、さりげなく淡々と描かれていていくのです。「戦争の物語を暴力ではなく、戦争のドラマの感情を描きたかった」という監督の言葉にうなずけます。そして遠景のラストシーンは、なんともうれしくなり希望を与えてくれます。
個が抹殺される軍隊という大きな組織の中で、どのように自分を生きていくか、一人ひとりの心の動きも見所です。また、高い教育を受けたダニロフとターニャ、教育はないが優しい心と知恵があるヴァシリ、自分は血を流さない軍の幹部たちと、兵士を支援する一般市民たち、彼らを通して、社会主義が求めていた平等とはいったい何だったのかも問題提起されています。