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 いちばん美しい夏

2001年8月

FIREFLY DREAMS(蛍の夢)

いちばん美しい夏

  • 監督・脚本・編集:ジョン・ウィリアムズ
  • 音楽:ポール・ロウ
  • 出演:真帆、南美江

2001年 日本映画 105分

  • 2001年カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭
     インターナショナル・コンペティション部門正式出品作品

「あのぉ~~、そういうのぉ~、どうだっていいじゃ~ん。あんたたちだって、やってんだろぉ~。自分で、ちゃんと考えてるんだからさぁ~。ほっといてくれないかなぁ~。」親に向かって語っている女子高校生。なんともケッタルイ言い方。金髪、制服の短いヒダのスカート、長めのベスト、足にはルーズソックス。現代の女子高校生の定番の姿が浮かんでくるでしょ? この映画の主人公・直美の姿です。

10代後半といえば大人の入口であり、いろいろなことに敏感に心が動く成長期です。現代のケッタルイ若者たちを見ると「ちょっと、しっかりしな!」と、おばさんは、彼女たちの肩をポンとたたきたくなるのですが、しかし、いや待てよ。彼女たちも、きっといろいろなことに敏感に感じているに違いない。ただ、表現していないだけだ。家庭でも、学校でも、地域でも、それをどう処理したらいいのかわからない。仲間と語り合ったり、先輩にきいてもらう場がないのではないか? 映画を見ながら、そんな思いがわいてきました。

両親の不和、イマイチ共感できない友達。直美は、夜の街で遊んでも、満たされないことに気が付き始めています。しかし、だからといって何をしたらいいのかわからない。くだらなくても、それしかすることがないから街に出て、適当に遊ぶ。直美を見ながら、そんなやるせない気持ちを持っている今の高校生たちを、理解できるような気がしました。

物語

名古屋の高校に通う直美は、茶髪の子。学校から帰ると制服を着替え、街で遊んで夜を過ごす。明け方、家に帰っても、両親はちょっととがめるだけ、夫婦仲は危機状態。とうとう、母親は家を出てしまった。直美は、夏休みの期間だけと、父親に連れられ、旅館を経営するおばさんの家にあずけられる。

おばさんの家には、従姉妹の由美がいる。少し知恵遅れ。由美は同世代の直美がやってきたことがうれしくてたまらず、いっしょにいたいと、直美の後をついてまわる。しかし、直美は、由美がうっとうしくてたまらない。ちょっと意地悪をしては、おばさんに叱られる。遊び場所もなく、何もすることがない。おばさんから言われて、宿泊客の食事を片づけたり、布団をたたんだりと旅館の手伝いはしているが、もちろんいやいややっている。おまけに、おばさんが世話をしている遠い親戚の小出さんというおばあさんを、一日一回、訪問することになった。自転車で少し走ったところにいる小出さんは、80歳近いきれいな女性だが、ときどきわけのわからないことを言う。

直美は、はじめは仕方なく訪問していたが、次第に小出さんの家へ行くことが楽しくなってくる。小出さんは「直美ちゃん、いらっしゃい」と縁側に誘い、 ビールを飲みながらおしゃべりをする。小出さんは、両親やおばさんのように小言を言ったり、いろいろとめんどうくさいことを尋ねないので、直美は普通でいられて居心地がいい。小出さんも、直美の訪問を楽しみに待っている。二人は夢や秘密を話すようになる。「あたしたち、同じ時代に生まれてきたらよかったのにね。」

いちばん美しい夏

小出さんの家の屋根裏には、古いものがいろいろと置いてある。「直美ちゃん、そこへ入ってはダメっていったでしょう」と言われながらも、直美はときどき探索する。そこで見つけたセピア色の写真。どうやら、小出さんは、若い頃、映画関係の仕事をしていたらしい。それも女優? 直美は次第に小出さんの過去に興味を持ち始める。

小出さんへの訪問をわりあいに楽しく過ごしていたある日、父が事故にあったという知らせが入る。父の葬儀で、久しぶりに会う母。「一緒に暮らそう」と母から言われるが、突然の父の死で、直美は考えることができない。自分を取り戻そうと、田舎に戻り小出さんの家へと向かう。

 

遊ぶ場所もない、何もすることがない、しかし美しい自然がある。「田舎」という空間に抱かれながら、その中で出会った一人暮らしの美しい老婆との関わりによって、直美は変わっていきました。これから直美はどのような高校生活を送るのか、そこまでは示されていませんが、彼女の心の中の奥深い部分で、何かが変わり、しっかりとしたものをつかんだということがわかります。人間の成長は、心配して周りが関わることでなされるものではなく、その人の中にすでにある自らの力(パワーでなくエネルギー)によって行われるものだということを、感じる映画でした。

この映画のもう一つの見所は、自然の美しさです。こんな場所がまだ日本にあったのかと思うような鳳来町、名古屋から2時間のところだそうです。ウィリアムズ監督は、「都会と田舎のコントラストを描き込み、直美の世代の経験と小出さんたち戦前世代の経験との間に横たわる溝を反映させたつもりです」と語っています。

美しい日本の風景と、縁側に座る後ろ姿や居眠りをする顔から老婦人の人生を浮かび上がらせたジョン・ウィリアムズ監督は、1962年のイギリス生まれ。小さいころから映画が大好きで、14歳のときから16ミリカメラを手に映画を作り始めました。1989年に来日し、現在は名古屋大学、上智大学で教えています。

原題は、日本語では「蛍の夢」。蛍は、夏の短い間だけ生きて輝き、自分自身を照らします。そのときは、自分の見る夢を輝かせているのでしょう。人間もきっと同じ。さまざまな季節を過ごす人生の中で、だれでも美しい夢を輝かす一瞬を持っていると思い、このタイトルが付けられました。

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