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お薦めシネマ
リーベンクイズ/日本鬼子
2001年12月
JAPANESE DEVILS
- ― 日中15年戦争・元皇軍兵士の告白 ―
- 製作・監督:松井 稔
- 製作・撮影:小栗謙一
- ナレーション:久野綾希子
- 音楽:佐藤良介
2000年 日本映画 160分
- 2001年 トロイア国際映画祭シルバー・ドルフィン賞受賞
- 2001年 ミュンヘン国際ドキュメンタリー映画祭特別賞受賞
- 2001年 ベルリン国際映画祭正式出品
- 2001年 トロント国際映画祭正式出品
映画は、8月15日の靖国神社の周辺の様子から始まります。そこには、まるで戦争中にもどったかのように、日本軍の軍服を身につけた元軍人の高齢者たちの姿がありました。また反対に、「彼らを、英霊と呼ばないでください」と戦争に反対する、遺族の姿もありました。同時多発テロの後のアフガニスタンで、またイスラエルでの危険な状態を抱えている今、この映画が公開されたことはとても意味深いことだと思います。
日本が本格的な侵略戦争を始めた1931年の満州事変から、1945年の日本の敗戦までの「日中15年戦争」で、中国大陸にいた元皇軍兵士だった人々の証言と、当時の貴重なフィルムで構成されています。彼らの独白は、歴史の流れにそって並べられ、並行して日本軍がどう行動していったかの説明が加えられているので、あの戦争の流れがよく理解できます。その中で、日本国民に対しては、どのように情報統制が行われていたのかもわかり、貴重な映像となっています。
いままでのテレビ番組などでは、あまり知られていない中国大陸における日本軍の、生々しい証言の連続です。南京虐殺に関わった人もいますし、細菌部隊と呼ばれた「731部隊」に所属していた少年隊員の証言もあります。
「『厳重処分』という言葉がありました。何の罪もない人を殺すのです。人間と思えば、そんなひどいことはできません。虫けらと思うからできるのです。」
「人をいっぱい殺すと、功績になるのです。天皇に対する功績です。」
「戦争なのだから、罪の意識はありませんでした。」
残虐な集団殺戮、捕虜への拷問、食料や家畜の略奪、生活器具の破壊、放火、婦女子への強姦、労働力不足に対する中国人狩りなど、その状況説明と共に、なぜそのようなことを行わなくてはいけなかったか、どういう気持で行ったかということが、証言者たちによって赤裸々に語られていきます。
1950年、1109人の日本人は、中国戦犯として中華人民共和国で拘禁されました。厳罰を覚悟していましたが、「戦犯とても人間である。その人格を尊重せよ」という周恩来の導きにより、人道的な扱いを受けました。良心に目覚め、自分の罪を認めた彼らは、中国人民に対し謝罪します。
「なんと人間性を無くした残忍な姿であったということが、ひしひしと解ります。実に憎むべき私であります。」
傷を負っている中国人を前に、ひたすら赦してくださいと謝罪する戦犯たちの法廷の映像が映し出されています。また、戦犯管理所に拘禁されている日本兵たちの映像もあります。それまでの残酷な内容から一変して、管理所では、運動会を楽しむにこやかな日本兵がいました。これらは貴重な映像です。
判決は死刑や無期はなく、禁固8年~20年で、そのほとんどが満期前に釈放されます。しかし、解放されて日本へ帰ってきたものの、彼らは「中国に洗脳されている」という偏見を受け、公安や警察から監視され、就職も難しく、苦しい生活となりました。
しかし、彼らは再び同じ過ちを犯してはいけないことを、若い世代に伝えたいと、自分たちが行った侵略戦争の実体や、残忍な行為を語り続けています。
戦争って、いったい何なのでしょうか? 何のために、人は戦いたいのでしょうか? 人を殺すことが正統化される戦争では、善悪がどう判断されるのでしょうか?
殺したくて殺した人はいません。人を殺さなくてはならない状況に追い込まれていったとき、人はどういう判断をするのでしょうか。この映画は、戦争という名のもとで、残虐な行為に走らざるを得なかった人々の記録であり、再び同じ過ちを犯してはならないと、若い世代に切実に訴えている彼らの心の叫びでもあります。 日本は今、再び戦争への道を歩み始めています。彼らの勇気ある証言に対し、私たちは何をしなくてはいけないのでしょうか。彼らの命を賭けた証言を、多くの人に受け取ってほしいと思います。
映画のパンフレットも貴重な資料となっています。証言者たちの経歴と告白、満州事変に至る日本の軌跡、日中15年戦争から敗戦までの流れなど、大切な資料がまとめられています。