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 こどもの時間

2002年1月

こどもの時間

  • 監督:野中真理子
  • 語り:イッセー尾形
  • 音楽:米山 靖
  • 協力:いなほ保育園のみなさん

2001年 日本映画 80分

  • 文部科学省選定

最近のこどもたちで、鼻水をたらしている子を見たことがありませんネ。昔は、いましたよね。えっ、昔って、いつのことかって? ん・・・。ま、それは、ともかくとして……。人間の進化で、鼻水が出ないようになったのかな……と思っていましたら、違いました。やはりこどもというのは、今でも鼻水が出るものだったのです。この映画に出てくるこどもたちは、みんな洟垂れ。男の子も女の子も鼻水を垂らしていて、夢中になって遊んで、それを拭こうともしません。
 「ああ、こどもらしいこどもがまだいるんだ……。」
 涙と笑いの中で感激しながら、この映画を見ました。

最初から汚い話で失礼いたしました。映画のタイトルは「こどもの時間」。こどもには、大人と違った時間が流れています。監督は、そんなこどもたちをジーッと追います。昨年、天声人語にも取り上げられて話題になった作品です。年を越して、やっと見ることができました。

撮影の舞台は、埼玉県桶川市の「いなほ保育園」。0歳~6歳まで、およそ100人のこどもたちの一年間を追っています。

           *     *     *     *    *

最初のシーンは、卒園式。「△△○○さん」と先生から呼ばれると、こどもは大きな声で「ハイ!」と言って、イスから立ちます。どこにでもある卒園式。しかし、ここからが違うのです。ピアノの曲にあわせて、大きく手を振って会場を一周します。裸足の子もいれば、ソックスの子もいて、運動靴ははいていません。途中、先生が卒園証書をリボンで結んで持ってます。こどもたちは右手を高く上げ、先生からそれを受け取ります。会場から大きな拍手があがります。一人ひとりを映し出します。どの子も誇らしげに、意気揚々とうれしそうに一周して、席に戻ってきます。ここでまず、ジーンとして涙がにじんでしまいました。

冬の保育園は、園長先生の旦那さんの焚き火から始まります。庭の中心に太い丸太を組んで、火を起こします。お母さんやお父さんに連れられて、はんてんを着たこどもたちが、焚き火の周りに集まってきます。

焚き火で体が暖まってくると、こどもたちはつれだって遊び始めます。どこまでも続く草原、畑、小川。庭には馬や山羊もいて、「こどもの時間」と同じように「動物の時間」が流れていきます。生まれたばかりの子馬が、こどもたちと一緒に走ります。

遊び疲れてお腹がすくと、お昼です。自分のイスを持って、三才児たちが庭のテーブルに集まってきます。今日のメニューは、肉ジャガと焼いたサンマ。まだお箸は使えません。彼らは、お肉もジャガイモも手でつかみます。焚き火で焼いたサンマも、手でちぎって……。「はい、あげる。」誰も教えなくても、こどもたちは、となりの子に分かち合いながら食事をしています。汚れていく手を見て、思わず「手を拭いて……」「鼻をかんで……」と言いたくなります。でも、先生たちは一言も注意しません。先生たちの接し方に、えらいな~って思ってしまいます。

きちんと正座していただく雛祭りのお汁粉、トラクターで起こした畑に蒔く大根の種、お父さんたちが作ってくれた夏のプールでの飛び込み、畑の中で食べる取り立てのスイカ、大きな木の根本でじっと見つめるクワガタ、力を合わせて掘った落とし穴、竹馬で歩く細い渡し板、卒園式で踊るダンスのために初めて自分で作った衣装。こどもたちの目線で、追っていきます。

春の訪れを知らせる“節分”の日。赤鬼がやってきました。赤鬼は、こどもたちを捕まえ連れていこうとします。先生たちが、必死でその子たちを守ります。泣き叫びながら逃げるこどもたちを見て、思わず笑ってしまうのですが、でも、涙が出てくるのです。連れていかれる恐怖というのは、こどもにとって相当のものですよね。こんな恐ろしさがトラウマになったりして……と思うのですが、でも、この場面を見て分かりました。捕まっても、自分の事をしっかりと守ってくれる人がいる……、小さい時期に、このことを体験することが大切なのではないでしょうか。体をはって自分を守ってくれる、この暖かな体験がこどもの成長に必要なのですよね。

大人たちのうるさい注意を受けて育つのではなく、こどもはこどもの時間の中で育つ。
とにかく、元気が出る映画です。こういうこどもの場所が増えるといいな~~~。

自主上映会の輪が広がります。

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