お薦めシネマ
息子の部屋
2002年1月
La stanza del figlio
- 監督・原案:ナンニ・モレッティ
- 音楽:アレッサンドロ・ザノン
- 出演:ナンニ・モレッティ、ラウラ・モランテ、
ジュゼッペ・サンフェリーチェ、ジャスミン・トリンカ
2001年 イタリア映画 1時間39分
- 2001年度カンヌ映画祭パルムドール賞(最優秀作品賞)受賞作品
人は、最愛の人を亡くしたとき、どのようにしてその哀しみ、喪失感から癒されていくのでしょうか。映画「息子の部屋」は、家族の死によって傷ついた人の心を、やさしく見つめ、深い慰めとやすらぎで満たしてくれます。
* * * * *イタリアの港町に住む精神分析医のジョバンニ(ナンニ・モレッティ)は、娘イレーネ(ジャスミン・トリンカ)、15歳の息子アンドレア(ジュゼッペ・サンフェリーチェ)、そして、仕事を持つ美しい妻パオラ(ラウラ・モランテ)と、幸せな毎日を送っていた。
彼の一日は、港のジョギングから始まる。そして、いろいろな苦しみを抱える患者と接しながら、彼らの話を穏やかに聞き、慰めとなっていた。
ある日、ジョバンニは、息子アンドレアの学校から呼び出しを受ける。アンドレアが友人と、アンモナイトの化石を盗んだというのだ。息子の無実を信じる家族。しかし、本当は、先生へのいたずら心で、アンドレアたちが盗んだのだった。テニスの試合で、アンドレアは、相手に勝とうとしない。ジョバンニは、最近のアンドレアを、どこか頼りなく感じ気にかけていた。
ある日曜日の朝、ジョバンニは息子をジョギングに誘う。しかし、患者からの急な電話で、往診に出かけることになった。
病気に脅える男性患者の往診から戻ったジョバンニを、息子の学校の先生が待っていた。仲間とダイビングに出かけたアンドレアが、潜水中に事故にあったというのだ。イレーネと共に病院に駆けつけるが、アンドレアは亡くなった。
アンドレアを失い、悲しみの日々が始まる。パオラは、ベットで泣き続ける。イレーネは、バスケットの試合で審判にくってかかり、退場を言いつけられる。ジョバンニは、患者の話を心おだやかに聞くことができず、息子とのジョギングを断念して往診した男性患者に対して、怒りがわいてくる。
あの日、往診を断って息子とジョギングに出かけていたら……。仲間とダイビングに行こうとする息子に、もう少し走ろうと誘っていたら……。自分を責めるジョバンニ。そんなジョバンニを、パオラは「過ぎたことは、しかたないのよ」と慰める。
3人は、それぞれが悲しみのうちに過ごし、一緒に食卓を囲むことが辛くなってくる。
そんなある日、アンドレアに女の子からの手紙が届いた。夏休みのキャンプで知り合ったガールフレンドからだった。パオラは、息子を知っているその子に会いたいと思う。ジョバンニは、パオラのためにガールフレンドに手紙を書こうとするが、涙で書くことができない。それを知ったパオラは女の子に電話をする。しかし、面会を断られてしまい失望する。
精神的につらい日々を過ごしているジョバンニが、精神分析医を続けるかどうか悩んでいるころ、ガールフレンドが旅行の途中だと言って、ジョバンニの家を訪れた。彼女は、アンドレアからもらったという写真を、家族に見せる。それはアンドレアの部屋の写真で、家族の知らないアンドレアが写っていた。
大切な人を失った家族は、それぞれに、悲しみ、迷い、荒れ、傷つけあいます。モレッティ監督は、苦しむ彼らをじっと見つめ寄り添います。
ガールフレンドと彼女と一緒に旅をしている男友達を送り、夜明けの港で彼らと分かれ、朝陽をあびる家族が、それぞれ思いに浸るラストシーンが印象的です。
カメラはゆっくりと、彼らから離れますが、「うん、この家族は大丈夫」と、観客の心も落ち着き、彼らから離れることができます。このとき、3人は、アンドレアの死を受け入れることができたのでしょう。