home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>突入せよ! 『あさま山荘』事件

お薦めシネマ

バックナンバー

 突入せよ! 『あさま山荘』事件

2002年5月

THE CHOICE OF HERCULES

僕の

  • 脚本・監督:原田眞人
  • 原作:佐々淳行(『連合赤軍「あさま山荘」事件』文藝春秋刊)
  • 音楽:村松崇継
  • 出演:役所広司、宇崎竜童、伊武雅刀、天海祐希

2002年 日本映画 133分


映画「突入せよ! 『あさま山荘』事件」は、連合赤軍派との対決のあさま山荘事件ではなく、犯人逮捕までの10日間、警察内部で何が起こっていたかという警察官たちのドラマです。

すべてが凍る冬の軽井沢、送電がストップされた真っ暗な山荘の中、水浸しの足元、どこに敵が隠れていて、いつ発砲されるのかわからない恐怖、苦しく過ぎていく時への焦り……。このような精神的にも、肉体的にも極限の状態の中で、犯人と戦い、人質を救出することに成功しました。当時の警察官たちの戦いの姿を見ながら、今も、同じようにいろいろな事件と立ち向かい、市民を守ってくれる警察官たちを思いました。

もう一つのこの映画の魅力は、リーダーシップの見事さです。主人公の佐々敦行氏は、最初は、長野県警とのゴタゴタの中でなかなか力を発揮できないのですが、次第にまとめていき、警察官の犠牲者が出てからは、突入の最前線で指揮をとり、時間制限の中で大勢の警察官たちを統率していきます。後輩が撃たれないように守りながら、適切な判断力と決断力で、長く苦しい攻防を終結させました。また、佐々氏を派遣した、当時の後藤田警察庁長官も素早い決断力と適切な人選も、みごとなリーダーシップでした。

             *     *     *     *    *

1972年2月19日、警察官に追われた連合赤軍派の5人が、管理人の妻を人質にしてあさま山荘に立てこもる事件が発生しました。長野県警は自分たちの力で解決するから、車両などだけ貸してくれと検察庁に協力を頼みます。しかし、学生運動を経験していた佐々氏は、経験のない県警だけでは難しいと、機動隊派遣の必要を考えています。

当時の検察庁長官後藤田正晴氏は、ただちに佐々氏を呼び、彼を指揮官として派遣するにあたって、6つの方針を出します。

    1. 人質は必ず救出すること
    2. 射殺すると殉教者になるため、犯人は全員生け捕りにせよ
    3. 人質交換の要求には断固応じない
    4. 火器、特に高性能ライフルの使用は警察庁許可事項とする
    5. 報道人とは良好な関係を築け
    6. 警察官の犠牲者は出さないように慎重に

後藤田氏からこの手書きの命令書を受け取って 軽井沢へ行った佐々氏を待っていたものは、長野県警の反発でした。警察の内部は階級制度が重要で、 会議のときも、誰がどこに座るかで大もめとなります。早く解決しなくてはいけない事件なのに、両者の勢力争いで、なかなか会議が進みません。佐々氏は、犯人との戦いではなく、長野県警や、官僚主義との戦いを強いられます。県警と警察庁側と両者から指示が出て、命令系統がなかなか一つにならず作戦が混乱します。後藤田長官の介入によって、佐々氏の指揮権が明確になった後は、少しずつ一つになっていきます。

時間ばかり過ぎていく中で、報道関係者や国民からも「いったい何をやっているのか」「犯人たちを、早く撃ち殺してしまえ!」という声が出てきます。家族の説得にも、発砲で答える犯人たち。そんな中、人質の身代わりを申し出る男性が、警察の目をくぐってあさま山荘に近づき、犯人から頭部を撃たれて最初の犠牲者となります。

報道人の雰囲気からも限界のときを悟った佐々氏は、2月28日を突入の日ときめます。クレーン車の鉄球を使って玄関上の壁を破壊して穴を開け、そこから放水、催涙ガスを投げ込んでから突入……という計画です。
※この時の作戦計画は、映画のホームページで見ることができますので、ご覧ください。

クレーン車の鉄球が動き、壁に穴を開けていきます。激しい放水の中、状況を見ようと楯から頭を出した警察官が撃たれます。犯人たちの腕の確かさを見せつけられます。弾を防ぐために楯を二重にした決死隊が、2か所から突入します。しかし、山荘の中は真っ暗、警察側から投げ込まれた催涙ガスで、目を開けることができません。楯をバリケードにしながらの手探りの行進の中で、2人目の犠牲者が出ます。上司を撃たれた犯人たちへの恨みの中では冷静な攻撃ができないと、佐々氏は隊の交代を命じます。

外でも困難が起きていました。クレーン車の鉄球で穴を開けた後、ツメに付け替えて屋根を剥がす計画でしたが、寒さのためバッテリーが上がってしまったのです。さらに、放水作戦のために用意した水も底をつきます。催涙ガスか放水か……、担当部隊の間でもめ始めます。予想以上に手間取り、あたりは暗くなってきます。これ以上時間はありません。

あらゆるところで混乱状態になっていきます。もはや装甲車に設置された司令部の中からは指揮がとれないと判断した佐々氏は、最前線で指揮を執るため、自ら山荘に入っていきます。

400m遠くから、やっと水が確保できたのですが、その放水量は10分間分しかありません。佐々氏は、この10分間に賭けます。放水によって壁が破壊されていくのを、じっと待ちます。放水が切れたら突撃です。しかし、緊張のためか、佐々氏の合図を待てずに誰かが「突入!」の声を発します。突き進む隊員たち。抵抗する犯人たち。水びたしの中で、人質は無事保護され、犯人たちは連行されました。

 

30年前のあのとき、釘付けになって見ていたテレビ画面の向こうでは、警察官たちの、こんな大変なことがあったのですね。彼らの勇気に感動します。しかし、そこにいるのは、弱さや未熟さをかかえたごく普通の人たちでした。

事件の10日間、いろいろなことがありました。この事件は、いったい何なのか……。映画の中では、答えはありません。私たち自身が、戦った佐々氏や警察官の思いに重ねながら、考えていくことなのでしょう。

当時の警察官たちも大変だったでしょうけれど、映画撮影のためにも、スタッフやキャストの間で、同じような騒動があったのではないでしょうか。すばらしい人間ドラマを、ぜひご覧ください。

▲ページのトップへ