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お薦めシネマ
この素晴らしき世界
2002年6月
- 監督:ヤン・フジェベイク
- 原作・脚本:ペトル・ヤルホフスキー(集英社)
- 出演:ボレスラフ・ポリーフカ、アンナ・シィシェコヴァー、
ヤロスラフ・ドゥシェク、チョンゴル・カッシャイ
2000年 チェコ共和国 123分
- 2000年度チェコ・ライオン賞主要5部門受賞
- 2000年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート
- 2000年バンクーバー国際映画祭観客賞受賞
- 2000年ヨーロッパ・フィルム・アワードノミネート
- 2000年パーム・スプリングス国際映画祭観客賞受賞
- 2000年コトブス国際映画祭国際批評家連盟賞
- 2000年モントリオール世界映画祭公式上映
- サンダンス映画祭特別上映
第二次世界大戦時、ナチス支配下のお話です。3月にご紹介した「ぼくの神さま」はポーランドの村が舞台でしたが、この「この素晴らしき世界」は、チェコが舞台です。チェコの映画には、ちょっとしたユーモアが入っています。苦しい迫害時代の映画でも、人々をなごませる……、そんなチェコ人の知恵と優しさを感じます。
主人公は、ヨゼフとマリエという子どもに恵まれない夫婦です。この家に、ユダヤ人の青年ダヴィトがかくまわれます。この3人の名前からも想像できるように、聖書のメッセージがたっぷりと盛り込まれている映画です。そして最後には、感動的なシーンが用意されています。
物語
チェコの小さな町に住むヨゼフ(ボレスラフ・ポリーフカ)とマリエ(アンナ・シィシェコヴァー)夫婦は、深く愛し合っていますが、子どもがいません。マリエは、毎朝、聖母マリアの額を掃除しながら、子どもに恵まれますようにと祈りを捧げ続けています。ヨゼフは戦争のため失業中で、毎日、ソファーの上でごろごろしています。
ヨゼフのかつての上司は、ユダヤ人でした。その一家は、大きな家に住んでいましたが、ゲットーに収容されるために連行されていきました。上司の息子ダヴィト(チョンゴル・カッシャイ)は、「家に宝石類を残しているので、ナチスに没収されないように、後で取りに行って欲しい」とヨゼフに頼みます。
ダヴィトとの約束を果たすためヨゼフは、ある日、屋敷に向かいます。驚いたことに、そこには収容所にいるはずのダヴィトが潜んでいました。収容所の生活があまりに苛酷なので、脱走してきたのです。ヨゼフとマリエはダヴィトをかくまうことにし、いざという時のために作っておいた、棚の裏の小部屋に住まわせます。
ヨゼフの友人、ドイツ系チェコ人ホルスト(ヤロスラフ・ドゥシェク)は、マリエに気があり、戦時下で手に入りにくい食料を土産に、度々ヨゼフの家を訪れます。ホルストは、ヨゼフの仕事を探してくれました。ユダヤ人から財産を没収する仕事でしたが、ヨゼフは時勢から、ナチスに荷担する仕事をいやいや引き受けます。ホルストは、ヨゼフの家の雨樋を通して聞こえてくる声や夫婦の態度から、彼らに何かあるのではないかと疑うようになります。
ダヴィト一家が住んでいた家には、ドイツ軍の将校が住むようになりましたが、二人の息子が次々に戦死しました。最後に、まだ子どもの三男も出兵しますが、脱走の罪で銃殺されてしまいました。ホルストは、地位を追われ住むところもなくした彼を、ヨゼフの家に置いてくれないかと頼みにきます。もちろん、ダヴィトがいるので、部屋を貸すわけにはいきません。困ったマリエは、今妊娠しており、生まれてくる子のために部屋が必要なので貸すことはできないとウソをつき、なんとかその場をしのぎます。
困ったことになりました。実は、ヨゼフは子どもができない体だったのです。考え抜いたた末、ヨゼフはダヴィトに頼み、マリエを本当に妊娠させようとします。生き延びるためにはしかたないと、いやがる二人をなだめるヨゼフ。ウソがばれたら、ダヴィトどころかヨゼフ夫婦も命がありません。ヨゼフが、子どものできない体であることを知っているホルストは、不信をつのらせます。
戦況が変わり、連合軍が町に入ってきました。ナチスに荷担していた人々は捕らえられ、ホルストも投獄されました。人々は、ナチスの協力者だった人々に殴りかかったりして、勢力が反対になった町は、あちこちで小競り合いが起こります。
そんなとき、マリエが産気づきました。ヨゼフは、ナチスに連行された医師を捜し回りますが、医師は服毒自殺していました。困ったヨゼフは、ホルストを妻の主治医だと言って家に連れ帰ります。彼を救うためでした。
ホルストと一緒に働いていたヨゼフも、ナチス協力者と告発されますが、2年間もユダヤ人をかくまっていたのだと訴えます。事実を確認するために連合軍司令官や兵士たち、訴える人々、ホルストが、ヨゼフの家にやってきます。一方ダヴィドは、ヨゼフの留守中、捕らえられるのではないかと恐れ、隠れ部屋から逃げ出します。家に着くと証拠のダヴィドがいないので、ヨゼフは窮地に立たされます。彼を救うために、ダヴィドは姿をあらわし、ヨゼフの疑いが晴れます。
ヨゼフ、ダヴィド、ホルスト、連合軍兵士やソ連軍兵士らが見守る中で、マリエは、無事、男の子を出産します。
ヨゼフは乳母車を押しながら、戦争が終わった町に出ます。まぶしい太陽の光を浴び、平和のすばらしさをかみしめるヨゼフ。彼は、マリエとダヴィドの間に生まれた、自分の息子を抱きながら、ガレキの町を歩きます。そこには、収容所で亡くなったダヴィドの家族と、ドイツ将校から脱走して銃殺された息子が、一緒のテーブルに座り、共に喜んでいる姿がありました。
この最後の場面に流れるのが、バッハのマタイ受難曲「神よ、憐れみたたえ」です。この曲が流れ出すことによって、戦争のない状態のすばらしさがしみじみと伝わってきました。映像と音楽のみごとな演出に感動しました。
ヨゼフを救うために姿をあらわしたダヴィドの目を見たとき、ダヴィドはイエスの姿ではないかと思いました。「この小さな者にしたことは、わたしにしたことだ」と言われたイエスの言葉を思い出します。ヨゼフは、厳しい戦時下で、マリエと共に命を賭けてダヴィドを守り抜きました。同じ人間として、一緒に生きていこうとしたのです。それも、気負った姿勢ではなく、日常生活の中で。
ダヴィドの目は、映画を見ている私たちに問いかけているように思えます。「あなたも、同じようにできるか?」と。
昨年からのアフガニスタン侵攻、パレスチナの戦闘が続いています。このような現在の状況の中で、「この素晴らしき世界」は、しっかりと平和を訴えています。
ドイツ軍の将校も、恐ろしい敵としての姿ではなく、息子を失って打ちひしがれ、地位を奪われて落ちぶれていくという、同じ苦しみを味わっている人間として描いています。