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 ロバート・イーズ

2002年10月

ROBERT EADS

ロバート・イーズ

  • 監督・撮影・編集・製作:ケイト・デイビス
  • 録音・共同製作:エリザベス・アダムズ
  • 出演:ロバート・イーズ、ローラ・コーラ、
          ロバートの家族と2人の友人たち

2000年 アメリカ映画 90分

  • サンダンス映画祭2001審査員賞
  • ベルリン国際映画祭2001特別観客賞
  • シアトル映画祭2001最優秀作品賞
  • フロリダ国際映画祭2001審査員特別賞
  • ヴィエナ・ゲイ&レズビアン映画祭2001最優秀作品賞
  • ホットドックス映画祭2001最優秀国際記録映画賞・観客賞
  • ポポリ映画祭2002最優秀記録映画賞
  • サンフランシスコ国際映画祭2001ゴールデンゲート(グランプリ)、最優秀長編記録映画賞、最優秀伝記映画賞
  • 山形ドキュメンタリー映画祭2001正式出品

ある男性の、死までの一年間を撮影したドキュメンタリー映画です。

 

春、イースターの日、カウボーイハットにジーンズの痩せた男性、ロバート・イーズは、友人たちを招いて行うパーティーのため、なれた手つきで料理の準備を進めています。やがて、ロバートの親友マックスがやってきて、テーブルの準備を手伝います。

ロバートは1945年、バーバラという名前の女の子として生まれました。娘時代は、両親を喜ばせるためにいやいや女の子の服を着ていました。結婚して男の子を2人もうけ、今は、かわいい孫もいます。しかし、自分に忠実に生きようと、35歳のとき性転換手術を受けました。「身体は僕を表さない。頭と心が自分を表している。」離婚した彼は、その後、男性として過ごします。そう、彼は性同一性障害者なのです。

しかし、女性の部分として唯一残っていた子宮がガンに冒され、末期ガンの宣告を受けました。もう残っている時間はありません。

ロバートの最愛のパートナー、ローラ・コーラもやってきました。ロバートより大柄なローラ。ローラは男性として生まれましたが、心は女性です。大きな体、太く低い声。その外見は男性ですが、実に女性らしく、痛みを抱えるロバートをやさしく包み込み、時にはロバートに甘えます。

2人は、トランスジェンダーの大会で出会いました。当時、ローラは皆の憧れの的でした。ロバートは、自分のような者は、ローラに見向きもされないと思っていましたが、ローラを射止めることができました。ロバートは、最高の幸せ者だと言います。はじめ、二人は友人以上の関係にはならないようにと約束していましたが、それは無理でした。今は互いを大切な存在として、深く愛し合っています。ロバートは、「世界一の美女だ」とローラをほめます。ローラは、真っ赤になります。

マックスも、ロバートと同様に女性から男性への性転換者でした。マックスが悩んでいたころ、ロバートがいろいろと助けてくれました。10年来のつきあいです。今、マックスも、男性から女性への性転換者と幸せに暮らしています。

病状が悪化する中、息子が孫を連れてやってきました。息子たちのために、とっておきの肉料理に腕を振るいます。息子にとってロバートは、ママですが、今息子は、男性となったロバートをそのまま受け入れています。ロバートがかわいがる孫も、ロバートが大好きです。

秋、ロバートが待ちにまっていたトランスジェンダーの大会がやってきました。参加することはできても、スピーチをするのは体力的に難しいのではないか……。ローラとマックスは心配します。

「黒人たちが、次には同性愛者たちが戦って、認められるようになった。自分たち性同一性障害者も、がんばって戦うときだ!」悩む若い人々に、自分の体験を力強く語ります。スピーチも無事終わりました。ロバートはタキシードに着替え、ダンスパーティーに向かいます。紅白のバラのコサージを、ローラにプレゼントしました。喜ぶローラ。抱き合って踊りながら、二人は幸せなひとときを過ごします。

冬、ロバートはとうとう入院しました。ローラは、自分を抱き、やさしく髪をなでていたロバートの手が止まったことを感じました。1999年1月17日、ロバートは亡くなりました。

 

ごらんのように、たくさんの賞をいただいた作品です。日本でも、性同一性障害者たちは苦しんでいます。5年前に、治療指針が定められましたが、実際の医療体制は難しく、性転換手術を行ったとしても戸籍の壁にぶつかっています。

意識は男性なのに身体は女性、または反対に、意識は女性なのに身体は男性ということが、いったいどんな感じなのかまったく想像できません。しかし、深い苦しがあるということは理解できます。自分自身の中の不一致に対する苦しみの上に、さらに他者の不理解と、社会的に認められないという重荷が負担になります。マックスは言います。「神は残酷だ」と。

アメリカでは、日本より性転換の手術が進んでいますが、たとえば同じ乳房摘出でも、女性が乳ガンで摘出する場合と、性転換者が乳房を切除する場合では、その丁寧さが違い、性同一性障害者たちは差別されているようです。

映画は、このような苦しみをことさらのようには描いていません。それよりも、ロバートとローラ、そして他のカップルを描きながら、互いの間にただよっている優しい空気を大切にしています。そして、支える仲間たちを……。

ロバートは、包容力があり、実にすてきな人間です。ロバートが「彼女は世界一の美人だ」と言うとき、ローラの容姿ではなく、彼女全体からにじみ出る心の美しさを言っているのではないかと思いました。ロバートに愛され、そしてロバートを愛したローラは実に魅力的です。

女性であるとは、男性であるとはというジェンダーを越えて、他者とどう生きたらいいのかを考えさせられました。

この映画をとおして、性同一性障害に苦しむ人々が勇気をもって自分の道を歩んでゆくことができるよう、また、彼らに対する理解を深めていくことができるようになればと思います。

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