お薦めシネマ
たそがれ清兵衛
2002年11月
- 監督:山田洋次
- 原作:藤沢周平『たそがれ清兵衛』『竹光始末』『祝い人助八』(新潮文庫)
- 脚本:山田洋次、朝間義隆
- 音楽:冨田勲
- テーマ曲:井上陽水
- 出演:真田広之、宮沢りえ、田中泯、吹越満
2002年 日本映画 2時間9分
- 第26回日本アカデミー賞全部門優秀賞受賞
- 第45回ブルーリボン賞作品賞、助演女優賞
- 第76回キネマ旬報ベスト・テン
- 第57回毎日映画コンクール
- 第27回報知映画賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演女優賞
- 第15回日刊スポーツ映画大賞作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞
- 第75回アカデミー賞外国語作品ノミネート
山田洋次監督にとって、はじめての本格的時代劇だそうです。「幸せの黄色いハンカチ」「家族」、そして「男はつらいよ」や「学校」と同じように、時代劇をとおしても、日本人の心情にしみじみと語りかけ、考えさせる映画を作りました。「山田監督、お見事!」という感じです。
物語
世は幕末、庄内地方の小さな海坂藩。50石取り、手取り30石という下級武士の井口清兵衛(真田広之)は、結核で妻を亡くした。治療代の上に葬儀のための借金が重なり、幼い2人の娘と痴呆の老人を抱え、極貧の生活だったが、父と娘たちは、家事と内職をしながら、支え合って暮らしていた。
仕事終了の合図の太鼓が鳴ると、清兵衛は、御蔵方の仲間の誘いを断り、娘たちが待つ家にそそくさと帰る毎日だった。仲間は、彼を「たそがれ清兵衛」と呼び、陰口をたたいていた。
清兵衛の友人である飯沼(吹越満)の妹で、幼なじみの朋江(宮沢りえ)が、酒乱の夫から逃れて実家に戻ってきた。離縁に腹を立てた夫が朋江を追ってきてあばれ、その夫を木刀でうち負かしたことから、清兵衛の腕前が藩の中でうわさとなる。
その時から、朋江は、清兵衛の汚い家に来ては、掃除や洗濯をし、子どもたちと遊ぶようになった。子どもたちに、新しい着物を縫ってやり、村祭りに連れていった。朋江が来ると家の中は明るくなり、さまざまなことを学んで、子どもたちもうれしそうだ。
朋江が自分と一緒になってもいいと言っていることを、清兵衛は飯沼から聞く。清兵衛も朋江が好きだ。しかし、身分が違うと言う。最初の数年はいいが、何年もたつと、50石の貧しさの中で暮らしたことがない朋江は、きっと耐えられなくなるだろう。自分に出世をしろと言うだろう。亡くなった妻がそうだった。朋江にそんな思いをさせたくないと、清兵衛は朋江との再婚を断る。
江戸の藩主が亡くなって跡目相続のいざこざがおき、反対派が切腹となった。しかし、ただ一人、切腹を拒んでいる余吾善右衛門(田中泯)がいた。ある夜、清兵衛は、その討ち手として家老の家に呼ばれる。藩命に逆らうことができなかった清兵衛は、翌日、討ち合いに向かう前に、朋江を呼び出し、小さいころからの思いを告白する。生きて帰ってきたら妻になってほしいと伝えるが、朋江は、数日前に他の縁談に返事をしてしまったと答える。
清兵衛は、意を決して余吾の家に入る。清兵衛は、妻の葬儀のために刀をお金に換えてしまい、さやの中は木刀だった。清兵衛が小太刀しか持っていないと分かった余吾は、清兵衛に斬りかかってくる。
清兵衛、朋江、父を慕う2人の娘……、彼らの「家族を思う心」を、山田監督は丁寧にじっくりと描いていきます。この「家族を思う心」は、私たちにもあります。だから、映画を見ている私たちの心も、切なくなるのでしょう。「人間にとって何が幸せなことなのか……」と、山田監督は問いかけています。
清兵衛と朋江の場面には、思わず涙が流れてしまいます。それも、次から次から涙が出て、ちょっと困りました。劇場へは、ハンカチをお忘れなく。