お薦めシネマ
ジョンQ
2002年11月
最後の決断
- 監督:ニック・カサヴェテス
- 出演:デンゼル・ワシントン、ロバート・デュヴァル、アン・ヘッシュ、
ジェームズ・ウッズ
2002年 アメリカ映画 1時間56分
- 東京国際映画祭 第15回記念大会 特別招待作品
野球の試合中に、突然呼吸困難に陥り倒れた息子。彼を救うには、心臓移植しかなかった。しかし、移植待機者名簿に登録するための資格が、この貧しい家族にはない。そこで、父親は、心臓移植の名医に銃を向けて病院の救急病棟に立てこもり、息子の命を救って欲しいと要求する。病院の外は、事の成り行きを見守る大勢の市民、武装した警察官、報道陣が取り囲む。事件の早期解決のため、狙撃班が彼を狙った。
物語
シカゴのダウンタウンに住むジョン・クインシー・アーチボルド(デンゼル・ワシントン)と、妻デニス、9歳の息子のマイクは、仲の良い家族だ。ジョンはやさしい父親で、マイクとは友達のようだ。しかし、ジョンの会社の景気が悪く、ジョンは半日だけの勤務にカットされた。デニスも働いているが、生活は苦しく、ジョンは、仕事を探す毎日だ。
マイクの野球の試合の日、応援するジョンとデニスの目の前で、走っていたマイク倒れる。救急車で病院にかつぎ込まれるが、検査の結果、心臓に欠損があることがわかった。後数週間、悪ければ数日の命と宣告され、死を待つしかない。ただ一つ残されている彼を救う手段、それは心臓移植だった。
「すぐ、移植手術をしてください!」と迫るジョン。心臓外科の名医レイモンド・ターナー(ジェームズ・ウッズ)は、移植のためには莫大なお金がかかり、術後の投薬のために生涯大変だと説明する。また、「レシピエント・リスト」(移植待機者名簿)に名前を載せなくてはいけないが、そのためには前金として7万5千ドルが必要だと言う。ジョンは、医療保険があるからと安心するが、家庭事情を調べた院長のレベッカ・ペイン(アン・ヘッシュ)は、ジョンの医療保険では移植に適用できないと冷ややかにつきはねる。ジョンの知らないうちに、会社が医療保険のランクを変更していたのだ。
ジョンは、マイクとの思い出の品や家財道具を売ることにする。世間の人々の協力を求めるためテレビでこの問題を取り上げてもらおうとテレビの人気キャスターにも接触する。友人たちや教会の人々からも、寄附が寄せられる。
マイクの容態が悪化する中、突然、病院側から退院を要求される。「お金はなんとかすると言ったのに……」と、デニスはジョンにつめよる。
ペインやターナーたち病院側の冷たい態度に、ジョンはある計画を実行する。ターナーに銃をつきつけ、救急病棟を占拠したのだ。
病院の周囲を、警察や報道陣が取り囲む。シカゴ市警のベテラン警部補フランク・グライムズ(ロバート・デュヴァル)は、ジョンとの信頼関係を作りながら、じっくりと話し合っていく作戦をとり、犯人に名前を尋ねる。ジョンは「ジョンQ」と名乗る。しかし、人気を気にしている上司の警察本部長は、凶悪な犯人は狙撃すべきだと狙撃命令を出す。グライムズは、リストに名前を載せるための条件として人質を解放するよう要求しようとするが、ペインは、例外は認められないと拒否する。
治療に来ていて人質となった人たちは、ジョンQの話を聞きながら、自分たちの中にもある今の社会体制への不満を話し、また、彼の優しさに触れ、次第に同情するようになる。
そんな中、弱り切ったマイクと電話で話すジョンQの姿が放映された。息子を思う父親の姿を見た市民が、病院の外から声援を送る。ペインも、ジョンQの姿に涙する。ターナーも、命がけの父親に心を動かす。
マイクの脈拍が落ち、危険になってきた。もう一刻の猶予もない。ジョンQは、次の計画を実行する。それは、考えられないようなことだった。
マイクは助かるのだろうか、移植手術は間に合うのだろうか……と、ドキドキ。今年のアカデミー賞で主演男優賞を取って話題となったデンゼル・ワシントンが、命をなくそうとしている息子を思って苦しむ、やさしい父親を演じまています。友人たちも親身。グライムズ警部補も人情派。対する、ターナー医師、院長のペイン、警察本部長、人気キャスターなど、名声と権力を求める人たち。
たった一人で病院を占拠するという方法は、ちょっと考えられないような事ですが、この事件は、単に一人の父親が息子を救うために起こしたことというより、不条理なアメリカ社会への抵抗といえます。数組の人質たちが、社会の縮図のようです。
冷たくシステマティックになった社会の中で生きる私たちに、「それでいいの? 大切なものを忘れているんじゃない?」と、問いかけているようです。
冷たいペインの変化が、魅力的でした。