お薦めシネマ
AIKI
2002年12月
- 監督・脚本:天願大介
- 出演:加藤晴彦、ともさかりえ、石橋凌、火野正平、
原千晶、桑名正博
2002年 日本映画 119分
- 日活創立90周年記念作品
- 平成14年度文化庁映画芸術振興事業
- 第59回ベネチア国際映画祭正式出品作品
特いつも役に一生懸命な加藤晴彦君が、じっくりと熱意を込めて演じている青春映画です。彼のすっきりとさわやかな目がいいですよね。「うん、わたしも『生きよう!』」と、味わい深く元気をもらう映画です。
物語
芦原太一(加藤晴彦)は、ボクシングの試合で、敵からボコボコに殴られながら打ったアッパーが利いて念願の勝利を果たす。ルンルン気分で恋人を後ろに乗せ、バイクを走らせているが、一時停止をせずに交差点につっこんできた乗用車とぶつかり、2人は路上に放り出される。恋人は、骨折ですんだが、太一は脊髄を損傷し、下半身マヒとなった。両親はすでになく、姉(原千晶)と2人だけだ。
太一は、ボクシングにかけた夢も破れ、自分に降りかかった悲劇を受け入れることができない。恋人とも友達とも会うことを拒否し、自分の世界に閉じこもっていく。支払いを苦に加害者が自殺し、その妻と息子が謝罪にきたが、太一は受け付けず、帰っていく小学生の息子に、「お前の親父は、クズだ!」とののしる。
手術のために入院してきた、車椅子の先輩(火野正平)の励ましもはねのける。太一は、毎日の薬を飲まずにためて自殺を図ろうとするが、それを察知した先輩は、「一年だけ生きてみろ! 一年たっても、おもしろいことがなければ、相談に乗る」と、太一を励ます。
一年経ったが、太一の生活は荒れていた。酒を飲み、加害者の妻から送られてくる金を持っては、パチンコに通った。障害者であるとわかると、人は急に優しくなり対等に関わってくれないことも体験した。
ある晩、歓楽街で、酔ってからんだチンピラに殴られているところを、テキ屋(桑名正博)に助けられる。テキ屋の紹介で、露天のアルバイトをするようになる。アルバイト先では、巫女のバイトをしている「イカサマのサマ子」(ともさかりえ)が、いろいろと助けてくれる。
対等に関わってくれるテキ屋や、テキ屋が通うクラブのママ、そしてサマ子たちに囲まれて、太一は「生きよう」と思うようになる。
「ただ生きてるだけじゃ、ダメなんだ!」
格闘技が好きな太一は、車椅子でも挑戦できそうな武術を探しまわるが、どこも車椅子では無理と断る。
ある日、神社の境内で披露されていた合気柔術の演武を見る。そこでは、師範の平石(石橋凌)が、向かってくる相手を、立ったまま、または座ったまま、わずかな力で、バッタバッタと相手をうち倒していた。「これだ!」と思った太一は、早々、平石に入門を願い出る。
AIKI =合気柔術とは、江戸時代に秘密武術として伝承された古来の武術で、力で人をねじ伏せるのではなく、「合気」によって相手の力を奪いコントロールするものだ。
平石は、何かというと「わたしはサラリーマンですから」と、控えめで誠実に生きているが、腕は本物だ。「AIKIは、相手を拒絶するのではなく、まず受け入れることです」「生涯、修行です」という平石の言葉が、太一の心を動かしていく。「降りかかったことを拒否するのではなく、自分の人生を受け入れるように」と促していた。
平石や、弟子たち、そしてAIKIを学ぶ仲間たちの中で、次第に力をつけていく太一は、生きる情熱を燃やしていく。もはや、車椅子は、障害ではなくなっていた。そんなとき、太一は、自分なりに獲得したAIKI の業を試すような試合を受けることになってしまう。
ちょっと、マンガチックな演出もあるのですが、最後の緊迫した試合は、太一の生き様と重なって感動します。誠実な師範役の石橋凌が、いい生き方を示しています。また、映画のエンディングのバックに、この映画のモデルとなったデンマークのオーレ・キングスト・イェンセン氏の映像が流れます。イェンセン氏と天願監督が出会ったは10年間前。長い時間温められて、映画化されました。
ふてくされて生きるのか、自分の状態を受け入れて、その限られた中でもなんとか生きようとするのか……。自分の大変さを主張しようとするのか、共に生きることを選ぶのか。ちょっとした心の置き方の違いで、人生、大きく変わるものです。それは、他人のせいでなく、自分で決めることなんですね。自分を生きるのは、自分しかいないからです。そして、その結果は、自分にそのまま帰ってきます。「生きよう!」とするとき、障害は障害ではなくなるのです。