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 アイリス

2002年12月

IRIS

アイリス

  • 監督・脚本:リチャード・エア
  • 原作:ジョン・ベイリー
  • 脚本:チャールズ・ウッド
  • 出演:ジュデイ・デンチ、ジム・ブロードベント、
          ケイト・ウィンスレット、ヒュー・ボナヴィル
  • 音楽:ジェームズ・ホーナー

2001年 イギリス映画 1時間31分

  • 2002年アカデミー賞最優秀助演男優賞
  • 2002年英国アカデミー賞(BAFTA)主演女優賞
  • 2002年ゴールデン・グローブ賞助演男優賞
  • 2002年SAG(アメリカ俳優協会)賞
  • 2002年イヴニング・スタンダード英国映画賞最優秀女優賞
  • 2002年ベルリン映画祭ニュータレント賞
  • 2001年ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞
  • 2001年LA批評家連盟賞助演男優賞、助演女優賞
  • 2001年ロンドン批評家協会賞主演女優賞、作品賞、主演男優賞

作家であり哲学者でもあったアイリス・マードックとその夫ジョンの、夫婦愛を描いた感動の物語です。言葉を紡ぐ者がアルツハイマーに冒され、言葉を失っていく恐怖。アイリスを女神とも仰ぐかのように愛し抜き、彼女を支えた夫の献身。夫婦愛とは何なのか、人は、どのように生きることが幸せなのかを、現在と若いときのアイリスとジョンを演じている4人の熱演で、見せてくれます。ジュデイ・デンチは、重厚な演技で見る者をひきつけます。また、ジム・ブロードベントは、この作品で2002年度アカデミー賞助演男優賞を受賞しました。

アルツハイマーに病む家族を世話するドラマや映画は、たくさんありますが、「アイリス」は、それらとは一線を画しています。症状がひどくなっていく過程の中で、ジョンの思い出として、若いころの2人が描かれていきます。それは、思い出としての存在ではなく、現在とつながっている過去として、同時進行のような形で描かれていくのです。

2人が共に生活るようになったときに、ジョンの心の中にあったわずかなわだかまりが、アルツハイマーという逃げることのできない病をとおして、次第に昇華されてゆき、2人の愛が完成されていきます。人間が生きていくためには、いろいろのことが必要ですが、でも、必要なことは本質だけ。それは「あなたを愛しています」という心だと、教えてくれます。生きている内に、ここまでお互いの愛を確認できるカップルは、そうはいないと思います。夫婦とは何か。この映画は、夫婦の究極の姿を見せてくれました。

物語

哲学者であり、「愛の作家」と呼ばれているアイリス・マードック(ジュデイ・デンチ)は、母校のオックスフォード大学のディナーに招かれ、スピーチを行う。「精神の自由こそ、何よりも大切な宝物」と語るが、その型破りのスピーチに校長は困惑する。しかしアイリスの隣では、夫のジョン(ジム・ブロードベント)が、誇らしげに彼女を見つめ、はじめて出会ったころを思い出していた。

若いころ、アイリス(ケイト・ウィンスレット)は、大学講師だった。知的で情熱的、魅力的な女性で、自分の考えをのびのびと表現していた。そんな彼女を、男性たちがほうっておくわけがない。若いころの自由奔放のアイリスには、性体験を伴った男友達がたくさんいた。同じ大学の指導教官であるジョンも、憧れのまなざしでアイリスを見つめていた。

今も、ジョンとアイリスは、仲の良い夫婦だ。しかし、アイリスは自分の変化に気がつきはじめていた。ジョンとの会話で同じことを2度言い、執筆中、単語が思い出せず、しばしばペンを止めていた。

当惑する彼女の姿を、隣の部屋からジョンがじっと見つめていた。あのときもジョンは、ドアの隙間からアイリスの部屋をうかがっていた。親密な関係にあるアイリスの男友達が彼女の部屋に入っていったのだ。彼の後を追ったジョンは、アイリスの部屋のドアをそっと開けた。

アイリス

アイリスと話すようになったジョンは、川で泳いだり、自転車で遠出をしたり、アイリスと一緒に過ごす時間を増やしていった。ある日、アイリスは、だれにも見せなかった書き上げたばかりの小説を、ジョンに見せる。

アイリスの症状は次第にひどくなっていく。医師から、アルツハイマーだと診断された。「病気が負ける日は来ない」と告げられたアイリスは、自分が分からなくなってしまう日が来るこを恐れながらも、覚悟を決めていく。しかしジョンは、言葉を職業としているアイリスから、言葉が奪われていくという現実を受け入れることができない。

アイリスの脳は、萎縮していく。ある日、ジョンが目を離したすきに、アイリスがいなくなる。方々を探すが、見つけることができない。とうとう、警察に届けることにする。調べに家に来た女性警察官は、その荒れ果てた部屋の様子に驚く。ジョンは、アイリスの世話で精一杯だった。施設への入所を進められるが、自分が世話をするとジョンはかたくなに断る。

一人の老人がアイリスを送り届けてくれた。彼は、かつて、アイリスと最も関係の深かった男友達だった。しかし、それがだれなのか、もちろんアイリスに分かるはずはない。

結婚する前、ジョンはアイリスの男友達との関係に苦しんでいた。当時を思い出していたジョンは、そのときの苦しい思いが湧いてきて、突然、ベットの横で寝ているアイリスに憤りをぶちまけ、わめきはじめる。目を覚ましたアイリスは、やさしく夫をなぐさめる。

あの時のジョンの問いに、アイリスは率直に男性遍歴を語り、自分を受け入れてくれるのはジョンだけだと告白する。

「あなたを、愛しているわ」 アイリスの知性は崩れていくが、ジョンへの思いだけは、はっきりとしていた。しかし、ジョンの世話は、限界に達していた。

 

「ビューティフル・マインド」は、統合失調症の夫への妻の強い愛を、社会生活の中で描いた物語でしたが、「アイリス」は、アルツハイマーの妻を、献身的に保護する夫の優しさを、家を中心に描いた物語です。どちらも音楽は、ジェームズ・ホーナー。病んでいく心の揺れを、すばらしい音楽で表現しています。日本中の女性と、夫婦に贈る名作となるでしょう。

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