お薦めシネマ
壬生義士伝
2003年1月
- 監督:滝田洋二郎
- 脚本:中島丈博
- 原作:浅田次郎(『壬生義士伝』文春文庫)
- 音楽:久石譲
- 出演:中井貴一、佐藤浩市、三宅裕司、村田雄浩、夏川結衣
2003年 日本映画 137分
- 東京国際映画祭第15回記念大会クロージング上映作品公式参加作品
- 2004年日本アカデミー賞作品賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞
昨年のお正月、テレビ東京の時代劇ドラマで、10時間にわたって放映された「壬生義士伝」。テレビとのタイアップで、今年は、映画で……という企画だそうです。テレビのほうでは、昨年暮れ、再放送されていたので、2つ併せてご覧になった方も多いのではないでしょうか?
テレビでは、渡辺謙が主演しました。吉村貫一郎が、なぜ南部藩を脱藩して、京都の義士の仲間入りをしたのかがよく描かれていたように思います。また、父を慕う息子が、父の無念の死を引き受けて五稜郭で闘い、あっけなく死んでいく、その時の父への思いが印象的でした。父を慕いながらも一緒に暮らすことはできず、長男として残された家族を守り、最後には死を持って父と一緒になるという息子が哀れで、その思いに感動したことを覚えています。映画では、友情が軸になっています。
物語
盛岡、南部藩に吉村貫一郎という男がいた。藩校で教えるほど優秀で腕も強いが、身分は低く生活は貧しかった。
3人目の子を身ごもった妻のしづ(夏川結衣)が、貧しさから入水自殺を図った。新撰組が腕の立つ武士を集めており、給料もいいということを聞いた貫一郎は、悩み抜いた末、家族を食べさせるために、脱藩して京都へ向かう決意をする。
貫一郎には、幼なじみの大野次郎右衛門(三宅裕司)がいた。彼は組頭で、貫一郎の上司である。次郎右衛門は、貫一郎から脱藩を告げられるが、上司として許すわけにはいかない。次郎右衛門が止めるのも聞かず、貫一郎は京都へと旅立つ。次郎右衛門は、貫一郎の脱藩で実家へ戻ったしづと子どもたちをそっと見守り、陰から貫一郎を助けるのだった。
京都の壬生で誕生した新撰組は、泣く子も黙る日の出の勢いの中にいた。新撰組の中で、局長の近藤勇も一目置く、強腕の斎藤一(佐藤浩市)。彼は、「いつ死んでもいい」といつも言い放っている。斎藤は、入隊したばかりで、方言丸出しの吉村貫一郎(中井貴一)が、腕の立つ人物であることは分かるが、なにかにつけて郷土自慢する姿が、たまらなくイヤだった。
斎藤には、囲っている女、ぬい(中谷美紀)がいた。ぬいは、貫一郎と同郷だった。貫一郎は、ぬいから、斎藤が吉原から身請けしてくれたことを聞く。身寄りのないぬいを、斎藤は大切に思っていた。冷酷な人物だと思っていた斎藤が、実はやさしい人だと知った貫一郎は、次第に斎藤を信頼していく。その思いを受けて、斎藤も貫一郎の一途さに心を開いていく。
何に対しても金ではかり、守銭奴のように生きている貫一郎だったが、その腕の確かさから、また純朴な人柄から、新撰組の中で、上からも下からも一目置かれるようになっていった。
しかし、情勢は変わり、京都守護は解任され、大政奉還が成立し、新撰組はその存在理由を失ってしてしまう。孤立した新撰組は、倒幕の大群と向かい合う。斎藤の止める声を背に、貫一郎は、居並ぶ鉄砲隊に向かって刀を振りかざして突き進んでいくのだった。
貫一郎の純朴さに触れて、凝り固まっていた心を開いていく斎藤。貫一郎の思いを分かっていながらも、立場ゆえに、貫一郎の命を助けることができず、脱藩した武士としての最期を迎えさせることで彼への思いを示す次郎右衛門。家族とも出会うことなく、苦しみの中で死んでいくしかなかった貫一郎の一途な姿は、現代の私たちに何を呼びかけているのでしょうか?
家族への思い、友への思い。映画は、明治の代になって、年老いた斎藤が、孫の病気を診てもらうために訪れた医院で、医師と話している中で、当時を回想するという形で進んでいきます。その医院の医師は、結婚した次郎右衛門の息子と貫一郎の娘でした。