お薦めシネマ
戦場のピアニスト
2003年2月
The Pianist
- 監督:ロマン・ポランスキー
- 原作:ウワディスワフ・シュピルマン著『戦場のピアニスト』春秋社
- 脚本:ロナルド・ハーウッド
- 音楽:ヴォイチェフ・キラール
- 出演:エイドリアン・ブロディ、エミリア・フォックス、
トーマス・クレッチマン
2000年 フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス合作映画 148分
- 第75回 アカデミー賞、監督賞、脚色賞、主演男優賞
- カンヌ映画祭パルムドール賞受賞
- ボストン批評家協会賞 最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞
- サンフランシスコ批評家協会賞 最優秀作品賞受賞
- ゴールデン・グローブ賞 2部門受賞
- ヨーロッパ映画祭撮影賞受賞
- 第28回 セザール賞、作品賞、監督賞、主演男優賞、撮影賞、作曲賞、音響賞、美術賞
- 第37回全米批評家協会賞 4部門受賞
- 他、受賞多数
「アカデミー賞最有力作品!」として話題になっている「戦場のピアニスト」。「ふたりのトスカーナ」に続いて、またまた、第2次大戦下のゲットーに収容されたユダヤ人の実話です。
監督自身、クラクフのゲットーで過ごし脱出した経験を持っています。ドイツ軍の様子、ゲットーでの生活、脱出のときの歩き方など、映画の各シーンには、監督自身の体験が生かされています。ポランスキー監督、満身の作品です。
1911年生まれ、ポーランドで活躍したピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンは、大戦終了後、1946年に戦争体験の回想録を出したのですが、発禁措置になりました。1998、息子がその回想録の草稿を発見し、今回の映画化に結びつきました。シュピルマンは、2000年7月、88歳で亡くなりました。
物語
1939年、ナチス・ドイツ軍が、ポーランドに攻めてきた。ラジオ放送のため、ワルシャワ放送局のスタジオでショパンの夜想曲を弾いていたシュピルマンも、爆撃を受ける。
街はドイツ軍に占領され、ユダヤ人への厳しい統制がはじまる。喫茶店や公園に入ってはいけない、歩道を歩いてはいけない、外出時にはダヴィデの星の付いた白い腕章をつけること……。ワルシャワに住むユダヤ人は、次第に生活を規制されていく。
1940年、シュピルマンの家族やユダヤ人たちは、ドイツ軍がワルシャワに指定した狭い居住区、ゲットーへ移住するよう強制される。ゲットーに入ったその日のうちに、周囲はレンガで壁が築かれ、外部と遮断される。50万人近くのユダヤ人が、狭い地域に詰め込まれた。
1942年、労働奉仕のために他のゲットーへ移動するという名目で、ユダヤ人たちが広場に集められる。不安におびえる中、シュピルマンたちは、有り金をはたいて、キャラメル1粒を買う。6つに分けた小さなかけらを、家族は大切に味わう。
貨車に乗せられようとするまさにそのとき、ある警察官によってシュピルマンは列の外に引き出される。家族は、ギュウギュウ詰めの貨車に押し込められていく。追いかけるシュピルマン。列の外に出たことによって、「生きていくこと」を与えられるが、「生きていくこと」は、辛く切ないことだった。
ワルシャワのゲットーでは、毎日、理由もなく多くのユダヤ人が銃殺されていた。目の前で仲間が殺されても、それを悲しんだり動揺したりすることは許されない。反応を示したら、すぐ殺されるのだ。
壁の外に買い出しにいく役目の仲間の協力を得て、ゲットーを脱出したシュピルマンは、信頼できる人々に助けられて生き延びていく。しかし、食料を援助してくれていた夫婦が捕らえられ、食べる物はなくなってしまった。
ゲットーによるワルシャワ蜂起(ほうき)がはじまり、シュピルマンが隠れていたビルも攻撃を受ける。危機一髪で隠れ家から脱出したシュピルマンは、破壊された建物の中を、食べ物を探し求めてさまよい続ける。たった一つだけ残っていた缶詰を見つけ、それを開けようとしているとき、彼の目の前に一人のドイツ軍将校が現れる。
「職業は」という問いに、「ピアニストだ」と答えたシュピルマンは、その将校からピアノを弾くよう求められる。 歩く力もないほどやせたシュピルマンが2年ぶりに弾くピアノは、力強い演奏だった。将校は彼を殺しはしなかった。隠れているように命じ、大きなパンをそっと差し入れてくれた。しかし、ドイツ軍は負け、将校もソ連軍の捕虜となる。
戦争は終わった。シュピルマンは、再びラジオ放送局でショパンを弾いている。
苦しい映画です。
人の頭を撃ち抜くのに、何の動揺も感じないドイツ兵たち。しかし、同じドイツ兵でも、ジャムと大きなパンを与えてくれる将校もいたのです。いつ殺されても不思議ではない状況の中で、シュピルマンが生き延びることができたのは、良心の声に従い、命をかけて助けてくれたこれらの人々の勇気によるものです。シュピルマンは、「生かされた」としか言いようがありません。
ドイツ軍将校が残した言葉が、すべてを語っているように思います。
「生きるのも死ぬのも神のご加護だ。そう思わないと生きていけない時代だ。」
収容所から解放された人々、かくまわれて生き延びることができた人々。残酷なドイツ軍も、負けた後は捕虜になり、立場は逆転します。戦争が止むことのない世界は、この繰り返しです。なんと空しいことでしょう。
主演のエイドリアン・ブロディはギリギリのところまで痩せて、まさにすべてをかけてシュピルマンを演じています。