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 船を降りたら彼女の島

2003年3月

船を降りたら彼女の島

  • 監督・脚本:磯村一路
  • 出演:木村佳乃、大杉漣、大谷直子、佐々木蔵之介
  • 音楽:押尾コータロー

2002年 日本映画 112分


まさに等身大の映画です。この映画によって、自分の中にある親への情が呼び覚まされ、自分の人生を深いところで見つめる大切さを気づかされます。

愛媛にある小さな島で育った久里子(木村佳乃)は、25歳。大学も就職も親に相談せず自分で決めてきた。結婚を報告するために、2年ぶりで島に帰ってきた。両親(大杉漣、大谷直子)に、特に父親に結婚を伝えたいが、なかなか言いだすことができないでいる。父親は、突然帰ってきた娘に何かあったのでは……と心配する。

「なぜ言いだせないのか?」 困ったことがあるといつも相談にのってくれた兄(佐々木蔵之介)が問いただす。久里子は、結婚を前にして、気がついたのだ。久里子は、親元からずっーと離れて過ごしてきた。結婚すると、また遠い東京で暮らすようになる。せめて、結婚までの日を、両親と一緒に過ごしたいと考えているのだ。

小学校の校長をしていた父は、退職した後、島でただ一つの民宿を母と一緒に営んでいる。民宿は、廃校になった校舎を改造したもので、二人は、瀬戸内海を見下ろす高台に建っていた家を壊して、ここに移り住んでいる。

父は、ときどきたばこを吸うために、急な坂道を上って、あの高台へ行く。海を眺めてたばこをくゆらせながら、海の向こうにいる娘に思いをはせてきたのである。しかし、久しぶりに帰ってきた年頃の娘に、父親はどう接していいかわからない。

かつての理科教室だった物置で、久里子は、小さいころ母が縫ってくれた黄色のワンピースを見つける。初恋の男の子とペアで持っていた鈴も出てきた。

小さいころを思いだした久里子は、記憶の中にある場所を訪ね歩き、男の子の消息を探す。しかし、彼は高校生のときに、交通事故で亡くなっていた。彼は、久里子からもらった鈴を大事な宝物として妹に託していた。それを知って久里子は思う。好きな人と結婚して、自分だけ幸せになっていいのだろうか……。

 

なぜ、なかなか言い出せないのだろうか。自分のことだけを考えて、大学、就職とまっしぐらに進んできたことに対して、両親に負い目があるのかもしれません。だれもが経験するであろう、娘としての親への思い。この気持は、よくわかります。自分のことと重ねて映画を見ていました。

修道生活にも、年に一度休暇があり、家に帰ることができます。会うたびに年をとっていく親。好きな道を歩ませてもらっていることへの感謝と、一緒に暮らすことができなくてごめんねという切ない気持が、こみあげてきます。

父と娘の思いを中心に、久しぶりに帰った島で、幼いころの思い出をたどる旅が展開します。

結婚という新しい人生に入る前に、久里子のように今までの自分を見つめ、じっくりと味わうという、通過儀礼のようなものが必要なのでしょう。このようにできる人は、幸せだと思いました。

風邪で熱を出して寝ている久里子のために薬を買ってきた父が、そっとアイスクリームを差し出すシーンがあります。
   「何それ」
   「小さいころ、熱を出すとアイスクリームを食べていただろ?」
   「……お父さん」

言葉少ない父だけれど、自分のことを思っていてくれたのだと思うと、ジーンときます。

テレビに映画にと大活躍の大杉漣さんが、渋~い父親の味をかもし出しています。去っていく娘を、高台に立って見送る父親の背中には切ないものがあります。また、父と娘の仲介者であり、潤滑油の役割を果たしている母親役の大谷直子さんも、自然体でステキです。

ゆったりとした島の生活、包み込んでくれる人々。……時の流れを止め、自分を見つめるひとときをお過ごしください。

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