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お薦めシネマ
11'09''01/セプテンバー11
2003年4月
September 11
- 監督:サミラ・マフマルバフ (イラン)
クロード・ルルーシュ (フランス)
ユーセフ・シャヒーン (エジプト)
ダニス・タノヴィッチ (ボスニア)
イドリッサ・ウエドラオゴ (ブルキナファソ)
ケン・ローチ (イギリス)
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ (メキシコ)
アモス・ギタイ(イスラエル)
ミラ・ナイール(インド)
ショーン・ペン (アメリカ)
今村昌平 (日本) - 芸術プロデューサー:アラン・ブリガン
- 統括プロデューサー:ジャック・ペラン
2002年 フランス映画 134分
「セプテンバー11(イレブン)」は、一昨年の9月11日に起きた同時多発テロ事件をいろいろな視点から描いた、世界11カ国の11人の監督によるオムニバス映画です。各作品は、9分11秒1の長さで作られました。
才能のある監督でも、9分という短さは難しいそうです。次々と登場する作品は、監督の視点、監督のお国柄が表現された、興味深い作品となっています。イラク戦争という背景の中でこの作品を見ると、また感慨深いものがあります。11作品の中から、3つの作品をご紹介しましょう。
最初の作品は、イランのサミラ・マフマルバフ監督です。
井戸から長い綱がのびています。その綱を引いて一人の男性が井戸から離れていきます。歩いて歩いて……。井戸では、水を入れた桶がやっと見えて来ました。その水を、集めてある土の上に蒔くと、子どもたちの足がこねはじめます。他の子は、練られた粘土を型に押し込んでいます。ここは、イランにあるアフガニスタンの難民キャンプ。どろまみれになってレンガ作りを手伝っている子どもたちに、「学校へ来なさい」と、一生懸命、声をかける女の先生。
先生は、教室に集まってきた子どもたちに、ニューヨークで大惨事が起きたことを伝えようとするのですが、通じません。
マフマルバフ監督は、「アフガニスタンのような国々に存在する貧困が生み出す距離感や、先進国の富がもたらす普遍的な矛盾について取り扱った映画を以前から作ろうと考えていた。9月11日以後、今こそ地球規模の対立について語るべき時だと思った」と語っています。
下の方から撮影したレンガを焼く高い煙突が、世界貿易センタービルを思わせました。あのとき、飛行機が激突する同じ映像を、イランでも見ていたのか……、そして、世界中の至るところで見ていたのかと思い、あの出来事の恐ろしさに、改めて重いものを感じました。
テロや戦争、貧しさという大人のエゴが作り出す恐ろしいこの世界の中にあって、出演している子どもたちの純粋な笑顔、真剣に学ぶ顔がとても新鮮で、この子たちの笑顔に救われる思いがしました。
次は、フランスのクロード・ルルーシュ監督の作品です。フランスからニューヨークにやってきた耳の不自由な女性と、一緒に住んでいる難聴者専門のツアーガイドの男性。彼は、ガイドのために世界貿易センタービルに出かけていきますが、部屋を出る前に、彼女とちょっとやり合いました。彼が出ていった後で、彼女は、彼のことでブツブツ言いながら、朝食を取りはじめます。
部屋にはテレビが付けてあり、世界貿易センタービルの衝撃の場面を映しているのですが、テレビは食卓を背にして置かれているので、彼女からは画面が見えません。彼女は、彼とのことで頭がいっぱいです。耳が聞こえたら、彼が向かったビルで何が起きているか分かるのですが……。しかし、テレビの画面に映し出されたビルが崩壊するとき、部屋が揺れ、彼女も何か変だなと感じます。赤いランプの点滅で、だれかがドアをノックしたことを知った彼女が扉を開けると、そこには粉塵を浴びた彼が立っていました。抱き合う二人。
この映画には、音がありません。サイレント映画です。観客が、彼女と同じ世界に入るためでしょうか。違うのは、観客にはテレビの画面が見えるというだけです。いったい、いつになったら彼女は気づくのだろうか……とやきもきします。現場にいても、何も気づかないということがあるのだろうか……。世界で恐ろしいことが起きていても、それを知らない、または、現実が見えていないということの恐ろしさを知らせているように思いました。
メキシコのアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の作品も印象的でした。先ほどの作品とは反対に、今度は、音の世界で、真っ暗な映像のない世界からはじまります。人々の喧噪がが聞こえてきます。左から右へ、右から左へと音は動き、臨場感を出しています。飛行機が激突した後の地上での人々の騒ぎでしょう。そして突然、世界貿易センタービルから飛び降りる人の映像が、フラッシュのように映し出されます。映像が消えて、バサッという音。たぶん、飛び降りた人が落ちた音です。恐ろしい映像と、音の世界。どんなに苦しかったでしょう。どんなに怖かったでしょう。助からないと分かっても、あの高いビルから飛び降りるしか道がなかった多くの人々。
暗闇の中で、飛び降りる人だけを見つめながら、今の世界の悲しさを思いました。20世紀は戦争の世紀だったと言われ、人々は21世紀を対話と協調の世紀として期待して迎えました。しかし、9.11のテロではじまった21世紀は、アフガニスタン攻撃、イラク戦争と、ますますひどい状況になっています。いったい、どうなっているの……、と叫ばすにはいられません。
戦争もテロも、人間の決断から生まれます。同じ「決意する」という行為を、平和の方向への決断に変えることはできないのでしょうか?
11の作品を見ながら、改めて「9.11」は世界の大惨事であり、イラク戦争も、世界の悲しい戦争として、忘れてはいけないと思いました。どうしたら、平和な世界を築けるのか、一人ひとりの努力にかかっていると思いました。