お薦めシネマ
サハラに舞う羽根
2003年9月
The Four Feathers
- 監督:シェカール・カプール
- 原作:A.E.W.メイスン(角川文庫)
- 脚本:マイケル・シファー、ホセイン・アミニ
- 出演:ヒース・レジャー、ウェス・ベントリー、
ケイト・ハドソン、ジャイモン・ハンスゥ - 音楽:ジェームズ・ホーナー
2002年 アメリカ・イギリス合作映画 2時間12分
アフリカのサハラ砂漠で繰り広げられる、壮大なスケールの作品です。監督は、アカデミー賞7部門にノミネートされた「エリザベス」(98)のシェカール・カプール。今回も、「これぞ映画!」とうならせる重厚な作品ができあがりました。音楽もステキです。
物語
イギリスが世界の1/4を制覇していた19世紀末、将軍を父にもつ軍人のハリー(ヒース・レジャー)は、エリート士官として期待を受け、仲間と興じるラグビーでも活躍し、舞踏会では、婚約者の美しいエスネ(ケイト・ハドソン)とともに、皆の祝福を受け、幸せの真っただ中にいた。
しかしそのとき、北アフリカのスーダンで起きた反乱を鎮圧するために、女王からの出動命令がくだる。仲間の兵士たちは、日ごろの訓練の成果を見せるときが来たと騒いでいる。しかし、ハリーは、予期せぬ命令に動揺する。命を賭けた戦いが、現実のものとして迫ってきたのだ。
「女王は、何のために戦うのだろうか。」
エスネとの幸せな生活を前にして、大切なものを失いたくないという思いと、戦闘への恐怖。軍人として、必死に戦闘訓練をしてきたにもかかわらず、戦いが実際のことになったとき、戦いに意味を見いだせなくなっていたハリーは、軍人としての自分の人生にも疑問を感じ、ついに除隊する決心をする。
ハリーが除隊届けを出したと知った兵士たちは、ハリーを非難し去っていく。親友のジャック(ウェス・ベントリー)は、「戦争に行くのは確かに不安だが、ハリーがいるから自分は行くのだ。君になら命を預けられる」と信頼の気持ちを打ち明けるが、ハリーの思いは変わらなかった。
ハリーの除隊を知った3人の連隊仲間は、「臆病者」のシンボルである3本の白い羽根をハリーに送る。エスネも、勇敢な軍人だと思っていたハリーに裏切られたように感じ、4本目の白い羽根を渡し去っていく。父親からも「君はだれかね」と、無視される。
ひとりぼっちになり、一般市民として悶々とした日を送っていたハリーは、ある日、イギリス軍が苦戦していることを聞く。熱い砂漠で戦っているジャックや仲間たちのことを思うと、ハリーはたまらなくなる。
場面は変わりアフリカ。アラブ人に化けたハリーは、イギリス軍の傭兵として荷物運びに雇われる、そこで、奴隷だったアブー(ジャイモン・ハンスゥ)と親しくなる。アブーは、危険に遭うハリーを、いつも助けてくれる。
イギリス軍が、反乱軍のワナにはめられると知ったハリーは、アブーを伝令として送るが聞き入れられず、イギリス軍は、反乱軍の大規模な攻撃を受ける。激しい銃弾戦の中には、白い羽根を送りつけてきたかつての仲間たちがいた。
その中に、暴発した銃で目が見えなくなってしまったジャックの姿もあった。ハリーは急いでジャックを岩陰に運ぶ。そこでハリーは、ジャックの軍服から落ちた手紙の束を見る。その手紙は、エスネからジャックに送られてきたものだったのだ。ジャックは、ハリーが婚約する前からエスネが好きだったのだ。今ジャックを支えているのは、エスネからの手紙だった。自分を助けてくれた人の顔をなでるジャック。ハリーは、手紙の束をジャックに渡し、だまってその場から去っていった。
ハリーは捕虜収容所に送られた次の仲間を救うため、自らすすんで捕虜となる。食べ物も与えられず、衰弱していくハリー。そこから救いだしてくれたのは、またもアブーだった。
帰国したハリーは、エスネを訪れるが、彼女はジャックの婚約者となっていた。ジャックのもとを訪れたハリーは、テーブルから落ちた手紙の束をジャックに渡す。その手に触れたとき、ジャックは砂漠の中で助けてくれた人の手を思い出す。
戦争に行くために訓練を受けている者が、いざ戦争となったら拒否する。それまでの彼にとっての戦争は、架空のものだったのです。彼は、親の希望と体制の中で、何の疑問もなく軍人というレールの上を走ってきたのでしょう。しかし、実際の出陣命令によって、戦争が現実のものとなったとき、はじめて「戦争とは何か」という疑問を持ちます。そして「何を選び、どう生きたらいいのだろう」と考えます。
ハリーが苦しんだ「戦争って何だろう」「この戦いに何の意味があるのだろう」「自分たちは何のために戦うのだろう」という疑問は、現在の世界状況の中で生きている私たちに、直接問いかけてきます。他国を責めるアメリカの姿と重なります。アメリカを助けようとする自衛隊の姿と重なります。
じっくりと考えながら、もう一度見たい映画です。
ちょっと一言:冒頭の舞踏会の中で、“サークル”を組む場面があります。着飾った男女たちが四角に並びます。皆が並ぶその囲いの中で、婚約したハリーとエスネが踊ります。そして、反乱軍からの攻撃を迎え撃つとき、砂漠の中で兵士たちは“サークル”を組みます。中央には、銃弾や馬など、大切なものを入れます。攻め入られてサークルが崩されますが、また立て直し、崩されては立て直し……。