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 ぼくの好きな先生

2003年9月

Etre et avoir

ぼくの好きな先生

  • 監督:ニコラ・フィリベール
  •   
  • 出演:ロペス先生と13人のクラスメイトたち
  •   
  • 音楽:フィリップ・エルサン

2002年 フランス映画 104分

  • 文部科学省選定
  • 2002年カンヌ国際映画祭特別招待作品
  • 2002年ヨーロピアン・フィルム・アワード 最優秀ドキュメンタリー賞受賞
  • 2003年バリャドリッド国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞受賞
  • 2003年フランス・セザール賞 最優秀編集賞受賞

フランス中部にあるオーベルニュ地方の小さな村にある、たった一つの小学校。教師生活35年のロペス先生(55歳)と13人の生徒たちの日常を、冬から夏にかけて撮影したドキュメンタリーです。

先生の静かな口調に、心が惹かれます。しかし、ロペス先生は、この撮影の年を最後に、退職なさいました。カメラは、愛情あふれるロペス先生と、子どもたちの対話をじっくりと追いながら、教育とは何か、人と接するとはどういうことなのかを、静かに語っています。

牧畜を主とした山間の農村の小学校には、3歳から11歳までの13人の子どもたちが通ってきます。

「ボンジュール、ムッシュ」子どもたちは、入口で迎えてくれるロペス先生に、にこやかにあいさつします。みな、学校へ来るのがとても楽しみなようです。

13人は、同じ教室で勉強しています。午前中は、小さい子たちの授業で、その間、大きな子たちは自習です。

小さい子たちは、「ママ」という字を習っています。一人ひとりが好きな色のマジックを持って、先生の手本を見ながら真似して書いています。みんなが書き終えると、お互いに見せ合います。先生から「みんなは、この字をどう思う?」「上手」「とても上手」「私の方が上手」などと言い合っています。こうして、小さいころから親しい関係を作っていきます。

午後は、大きい子たちの授業です。ロペス先生の朗読の書き取りです。ロペス先生は、一人ひとりに言葉をかけながら、さらに、小さい子たちにも目を配りながら、朗読していきます。

ぼくの好きな先生

ジョジョ(4歳)
ぬり絵の時間。ジョジョは、ぬり絵を完成させないと、外に遊びに行けないのですが、なかなか集中できません。キョトキョトと、周囲を見てしまいます。「できたか?」という先生の問いに、「もう少し」と答えるジョジョ。しかし、ジョジョの「もう少し」は、たくさんでした。

マリー(4歳)
マリーは、上手に字を書きます。よく気がつき、友達の面倒もよくみます。しかし、先生がジョジョにしている質問に、横から答えてしまうのです。「マリー、君には聞いていない」先生に、何度も言われてしまいました。

オリヴィエとジュリアン(10歳)
2人は、年齢も体格も同じです。もうすぐ卒業ですが、このごろ、よくケンカをします。先生は、2人を呼びました。

「何があったのだ」ロペス先生が、2人に尋ねます。ジュリアンが説明しました。しかし、オリヴィエは黙ったままです。なかなか話そうとしないオリヴィエに、先生は、そっと聞きます。「何が気に入らないのか?」「……」「ジュリアンの何が気に入らないのか?」やっとオリヴィエの口が動きました。「ぼくを侮辱した。」

先生は、一人ひとりの心の中で、何が起きているのか掘り下げていきます。そして、勝つことがすばらしいのではないこと、小さい子たちの前では模範になってほしいこと、ケンカするより仲良くなることの方がすばらしいことを語っていきます。

2人は、この夏、小学校を卒業して町の中学に入ります。「中学へいったら、他の人からの攻撃を受けるだろう。その時、互いに守ってあげなくてはいけない。しかし、2人だけになって孤立してはいけない」と教えます。

一クラスしかない村の小学校を出た2人は、勉強が遅れています。ロペス先生は、中学へ行ったときの2人のために、補習の先生を探してくれました。

■ナタリー(11歳)

ナタリーも、夏休みが終わったら中学に行きます。彼女の場合、勉強の面では、心配がありませんが、人とかかわろうとしないという、大きな心の問題がありました。

「人と話すのが嫌いなのか? それとも、自分だけの世界に入っていたいのか?」ロペス先生は、ナタリーに問います。ナタリーは、黙ったままです。ロペス先生は、彼女の口が開くまで、じっと待ちます。ナタリーは自分でも苦しいのでしょう、涙がこぼれてきました。「中学へ行ったら、何でも話せる友達を見つけなさい。」そしてこう結びます。「先生と話したかったら、いつでもおいで。そうだ、○月○日の午後はどうだろう。待っているよ」先生の言葉に、ナタリーはホッとしたようにうなずきました。

カメラは、一人ひとりの子どもたちの様子、みなで作るクレープ、両親が教えてくれる家庭での宿題、夏の戸外での授業、みんなで電車に乗って行った町の中学校などを描いていきます。

 

上映が終わって映画館を出るとき、前を歩いている若い女性の声が聞こえてきました。「反省させられたわ。あの先生の静かな声。どなっても、聞いてもらえないのよね。明日から、子どもたちへの接し方を変えなくては……。」

この映画は、教師や親だけでなく、他者とのかかわり方、自分の心の動きを見つめることの大切さを教えてくれました。ロペス先生はとても魅力的で、こんな先生に教わりたいと思いました。きっと、この村の小学校を卒業した子どもたちの生涯にわたって、心の先生となっていることでしょう。

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