お薦めシネマ
歌追い人
2003年11月
- 監督・脚本:マギ-・グリーンウォルド
- 音楽監督・作曲:デイヴィッド・マンスフィールド
- 出演:ジャネット・マクティア、エイダン・クイン、エミィ・ロッサム、
ジェーン・アダムス、パット・キャロル
2000年 アメリカ映画 109分
- 2000年サンダンス映画祭特別審査員賞
- 2000年ドーヴィル映画祭観客賞
- 2000年ロサンゼルス映画祭最優秀プロデューサー賞
- 2001年インディペンデント・スピリット・アワーズ
新人賞・最優秀助演女優賞
音楽の学者で、大学での昇進を目指していた女性が、山奥で貧しく暮らす人々の生活の歌にふれ、人と人との関わりの中で生きることの幸せに気づいていく物語です。1907年のお話ですが、「生きるとは……、幸せとは……」と、1世紀たった今でも通じるテーマで、考えさせられます。
物語
1907年、ニューヨーク。数少ない女性の学者として大学で音楽を教えているリリー(ジャネット・マクティア)は、こんどこそは主任教授に……と期待していたが、女性という理由で、また昇進できなかった。不倫相手の教授も、昇進のためには力にならないとわかったリリーは、夢がなくなった大学を辞め、ノースカロライナ州のアパラチアで暮らす妹のエレノア(ジェーン・アダムス)を頼って都会を離れることにする。エレノアは、入植地で小学校の先生をしていた。
アパラチアの山地で、エレノアは同僚のハリエット、孤児のディレイディス(エミィ・ロッサム)と共に暮らしていた。都会の文化的な生活に慣れているリリーは、貧しい山の暮らし方にとまどう。しかし、夕食のとき、リリーを歓迎してうたったディレイディスの歌声を聞いて驚く。
「これは、すごい発見だ!」リリーの目は輝いた。今ではもう残っていないと思われていた200年前のスコッツ・アイリッシュの移民の歌を、ディレイディスは当時のうたい方でうたったのだ。この地では、他の村人も同じようにうたっているという。リリーは、この歌声を録音して楽譜におこし、出版しようと思い立つ。だれもが振り向くような本になるはずだ。
さっそく、町から蓄音機を取り寄せ、一方では、研究のために助手を送ってほしいと大学に依頼するが、教授を送るので、君が助手をするようにという返事だった。
リリーは、歌の好きなディレイディスの助けを得て、重い蓄音機をひっぱって、あちらの山、こちらの山と家々を尋ね、録音と採譜をはじめる。村人は、自分たちが生活の中でうたっている歌に、なぜこんなに興味を持つのかわからないでいる。それでも、村人の信頼があつい高齢のヴァイニー(パット・キャロル)の信頼を得て、リリーの仕事は進んでいくが、中には、ヴァイニーの孫のトム(エイダン・クイン)のように、リリーをうさんくさく思っている人もいる。
リリーは歌を求めて山を歩き続ける。男女の愛も、夫婦のいさかいも、浮気している夫への嘆きも、畑仕事も、一日を終えた感謝も、子どもへの思いも、日常生活の会話が、そのまま歌になっていた。
エレノアとともに生活するうちに、リリーは、エレノアとハリエットが愛情で結ばれていることを知りが、同性愛者の妹を受け入れることができなかった。
リリーは歌を集めながら、現金収入のない山の暮らしが、いかに厳しいものであるかを知っていく。「共に生きる人がいなければ、この地では生きてはいけない」と訴えるエレノアの言葉を聞きながら、リリーは、次第に、人とともに生きていくことのすばらしさに気づいていく。
ある夜、村の集会所で、村人が楽しみにしているダンスパーティーが開かれた。そこには、楽団の中に入ってギターを弾くトムと、村人と楽しく踊るリリーの姿があった。
しかし、エレノアとハリエットが同性愛であると知った村人たちによって、エレノアの家が焼かれてしまう。リリーたちが苦労して集めた楽譜や録音テープも、炎の中から持ち出すことはできなかった。
全てを失ったリリーは、トムに、一緒に行って、アパラチアの歌を人々に伝える仕事をしようともちかける。
地位、名誉、都会での文化的な暮らし、世間体という、それまでのリリーの価値観は、アパラチアに入植した人々の歌と生活に触れることによって変わっていきました。
映画の中でうたわれているアパラチアの音楽は、「マウンティン・ミュージック」と呼ばれ、すべてのアメリカ音楽のルーツと言われています。アイルランドやスコットランドから入植した人々の山の中での孤立した生活が、古い形のままの音楽を守っていました。映画では、ミュージシャンたちが出演し、その美声をきかせてくれます。リリーの物語とともに、ディレイディス役のエミィ・ロッサムや、ヴァイニー役のパット・キャロルをはじめ、村人たちがうたうアパラチア音楽の歌声もこの映画の貴重な宝となっています。