home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>息子のまなざし

 > バックナンバー

お薦めシネマ

バックナンバー

 息子のまなざし

2003年12月

Le Fils

息子のまなざし

  • 監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
  •   
  • 出演:オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリンヌ

2002年 ベルギー=フランス映画 103分

  • カンヌ国際映画祭主演男優賞・エキュメニック賞特別賞
  • ファジル国際映画祭グランプリ・主演男優賞
  • ベルギー・アカデミー最優秀作品賞・監督賞・主演男優賞

心に残る映画です。最初の字幕から、終わりのクレジットまで、音楽は一切ありません。セリフもごくわずかです。映し出されるシーンも登場人物もとても静かです。人間の心の映画です。

主人公は、職業訓練所で大工仕事を教えているオリヴィエ。カメラは、彼の肩越しにすべてを映し出していきます。彼が何を見、何を思っているのかを、視聴者が同じ目線で体験していきます。物語が進んでいくうちに、彼が何を気にしているのか、なぜ気にしているのかが、明らかになっていきます。

物語

オリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は、職業訓練所で大工仕事を教えている寡黙な男性だ。ある日、少年院を出所したフランシス(モルガン・マリンヌ)という少年が訓練所に入る。フランシスは大工仕事のクラスを希望していたが、オリヴィエが断ったので、溶接のクラスに回される。オリヴィエは、少年を避けているようだ。

オリヴィエは仕事を終え、家に帰る。質素な部屋と簡単な食事。そこへ別れた妻のマガリが尋ねてくる。今妊娠していて、近く再婚するという。

翌日。オリヴィエは、その少年のことが気になってしようがない。一端は受け入れを断ったが、少年をクラスに入れることにする。フランシスは無表情だが、心なしかうれしそうだ。

オリヴィエは誰にもするように、はじめての生徒のために準備をしていく。フランシスをロッカーに案内し、作業服に着替えるよう指示する。大工仕事に欠かせない定規を与え、その使い方を教えながら、最初の作品である個人持ちの道具箱を作る指導をしていく。どの生徒にもすると同じように……。その後、オリヴィエは、家へ帰るフランシスの後をつけていく。

たまたま夜のホットドック屋で一緒になったオリヴィエとフランシスは、仕事以外の言葉を交わすようになる。

息子のまなざし

帰り道、オリヴィエが目測で距離を測ることができると知ったフランシスは、オリヴィエを尊敬するようになる。

次の日、授業が終わったオリヴィエが、フランシスを車で送ろうとしてるところへマガリがやってくる。車に乗っているのが、かつて、自分たちの幼い息子を殺した少年であることを知ったマガリは、気を失ってしまう。怒りをあらわにするマガリには、少年に大工仕事を教えているオリヴィエの心が理解できない。

週末、オリヴィエは木材を仕入れるために、フランシスを誘って郊外の木材置き場へと車を走らせる。信頼して乗るフランシス。オリヴィエは、知らないふりをして、フランシスにどんな事件を起こしたのかと尋ねる。フランシスは、子どもを殺したことを話す。フランシスは、オリヴィエに後見人になって欲しいと頼む。

木材置き場に着いたオリヴィエは、フランシスが殺したのは自分の息子だと告げる。とっさに逃げるフランシス。「少年院の5年間で、十分償った!」と怒鳴り、材木の間を走る。森に逃げ込んだフランシスを捕まえたオリヴィエは、フランシスの首を占めようとするが……。

息子のまなざし


 

主人公のオリヴィエも、少年役のモルガンも、難しい役を自然体で演じています。

映画の中での事件は、1993年、ベルギーのリヴァプールで実際に起きた事件を元にしています。10歳の2人の少年が、2歳の男の子を惨殺しました。ショッピング・センターで母親が目を離したすきに、連れ出したのです。

1997年の「神戸連続児童殺傷事件」以来、少年たちの残忍な事件が後を絶ちません。この映画の試写は、ちょうど長崎で起きた中学生の男児殺害事件「聡ちゃん事件」があったすぐ後でした。ケースがよく似ているので、身を入れて見てしまいました。殺された子の両親は、また、犯人である少年は、どのような思いでいるのでしょう。自分だったらどうするだろうか……という思いもありました。

監督たちは、「息子のまなざし」について、次のように語っています。

 

「復讐」というのは非常に古いテーマです。ギリシャ悲劇から現代
  映画まで幅広く取り上げられています。現代映画では、復讐はシナリ
  オを構成する道具になっています。我々は、この復讐という道具立て
  で、何ができるか見てみたいと思いました。聖者にならずに復讐を逃
  れることはできるのか。同じ人殺しを繰り返すというパターンを破る
  だけの力が人間にはある……。

確かに、オリヴィエは犯人を憎んでいました。しかし、復讐心に支配されてはいませんでした。目の前に表れた少年を、一人の人間として見ることができたのです。少年は悪い人ではありませんでした。普通の少年、同情できる環境で育った少年でした。何も知らないフランシスは、自分を信頼してくれています。オリヴィエにとっても、事件のことがなかったら肌の合う相手ではなかったかと思います。しかし、少年は、息子を殺した憎い犯人です。オリヴィエの中では、葛藤が起きます。

だれもが持っている人間の弱さを見てしまったら、そこに共感してしまったら、「復讐心」よりも人間としての共感や受け入れる方が強くなるのではないかと思いました。

憎しみが憎しみを生み、それによる戦争を止めることができない今の世界の中で、オリヴィエの姿は、語りかけるものがあるように思いました。人間のすばらしさを描いている作品だと思いました。ぜひ、ご覧ください。

▲ページのトップへ