home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>ホテルビーナス

お薦めシネマ

バックナンバー

 ホテルビーナス

2004年3月

THE HOTEL VENUS

ホテルビーナス

  • 監督:タカハタ秀太
  •   
  • 脚本:麻生哲朗
  •   
  • 出演:草彅剛、中谷美紀、パク・ジョンウ、コ・ドヒ、
        チョ・ウンジ、イ・ジュンギ、香川照之、市村正親

2004年 日本映画 2時間5分 韓国語/日本語字幕


今、フジテレビのドラマ「僕と彼女と彼女の生きる道」(火・夜10時)で、子どもを抱えて困惑しながらも、子どものために生きようとする父親役を熱演しているSMAPの草なぎ剛君が主演の映画です。彼が韓国語を流暢に話すのは有名ですが、今回はそんな彼のために作られたような作品です。なんと、セリフはすべて韓国語で、日本語の字幕がつくという映画なのです。「日本語を読む映画」だそうです。草なぎ君だけでなく、日本人の出演者の韓国語もとても上手で、びっくりしました。

ささやくような優しさと、恨みの激しさという両極をもった韓国語を聴きながら、目では日本語を追っていくと、耳で聴いたときとは違う日本語の美しさを感じるようになりました。たぶん、字幕を読むということは小説を読むのと同じで、行間にあるものを感じるからかもしれません。限られた文字数の中で表現するため、厳選された言葉を使っているからでしょうか。

最初の部分を見ながら、「若い人の映画だ!」ということを強く感じました。日本語を読ませるということも含めて、サウンドの使い方、カメラの角度、カットの仕方などテンポがあり、シャープなのです。色のトーンを落としたような感じで、写真を見ているような錯覚を覚えました。しかし、内容は人の優しさを扱った作品なのです。

最初はホテルビーナスの全体像を受け取っていましたが、登場人物一人ひとりの素性がわかってくると、次第に内容に引き込まれ、最後には、彼らの一員になったような感じになって一緒に涙をにじませていました。なんとも不思議な作品です。

物語

北の果てにある街に、うらぶれた喫茶店「カフェ ビーナス」があった。ウェイターのチョナン(草彅剛)は、無愛想な態度で客にコーヒーを出しいる。彼はカフェの奥にある「ホテル ビーナス」の長期滞在者たちのお世話もしていた。滞在者の洗濯をしたり、食事を作る毎日だが、心を閉じているようだ。

1号室には、“ドクター”(香川照之)とその妻“ワイフ”(中谷美紀)が住んでいる。“ドクター”は、以前はとても評判の腕のいい医者だったが、手術ミスをしてからというもの、すっかり自信をなくし酒におぼれる毎日だ。“ワイフ”は看護婦として“ドクター”の医院で働いていたが、今は、2人の生活を支えるためにホステスとして働いている。彼女は“ドクター”の再起を願っているが、“ドクター”は立ち直ることができず、2人の間には喧嘩が絶えない。

3号室の住人は、花屋で働いている若い女性の“ソーダ”(チョ・ウンジ)。花も咲かないような土地からやってきた彼女は、いつか自分の花屋を開きたいと思っている。

4号室には、小さいときカフェに置き去りにされた“ボウイ”(イ・ジュンギ)が住んでいる。彼は、このホテルで育った。強さにあこがれ、いつもピストルを持っていて、自分を「殺し屋」だと言っている。

ホテルビーナスの長期滞在者はみな、どこからか流れてきた“わけあり”の人ばかり。そんな彼らを受け入れ、そっと見守っているのが、いつもカフェのカウンターのすみに座っているいるオーナーの“ビーナス”(市村政親)だ。彼らはみな、隠れるようにしてこのホテルに住んでいる。実はチョナンも、捨てきれない過去をひきずってこのホテルにやってきたのだった。

ある日、流れ者風の男がカフェビーナスの扉を開けた。彼の後ろには、ヒールの高い大きなサンダルをはいた女の子が立っていた。男は、コーヒーを注文して言った。「ビーナスの背中を見せてくれ」と。これは、ホテルに潜んで暮らしたいという合言葉だった。オナーのビーナスは受け入れ、彼らは2号室の住人となった。

男は“ガイ”(パク・ジョンウ)といい、翌日から日雇いの仕事に出ていった。女の子は“サイ”(コ・ドヒ)といったが、部屋から一歩も出ず、チョナンが運ぶ食事にも手をつけようとしなかった。

ガイとサイが来たことによって、ホテルの住人の様子が少しづつ変わっていった。チョナンは、食事を拒み続けるサイの部屋へ根気強く食事を運び続けた。サイが次第にチョナンに心を開くようになったある日、チョナンはサイを太陽の日差しがまぶしい洗濯干し場に連れ出す。口を開こうとしないサイに、チョナンは得意のタップでコミュニケーションをはかりながら、洗濯干しを手伝わせる。ボウイは、強そうなガイが気に入らず、ドクターも毎日仕事に出ていくガイを見るにつけ、ますます自己嫌悪に落ち込んでいった。

チョナンが、ソーダの様子がおかしいと気づいたある日、ドクターと喧嘩をしたワイフがホテルを出ていった。

 

ホテルビーナスに住んでいる人は、「他人のことは関係ないね!」とふてくされているようですが、いえいえどうして、黙っているようでいてそっと他者を心にかけていました。ほっといてくれと言っているけれど、実はさびしくて自分の心の声に耳を傾けて欲しい……、その距離感が難しいのですが、彼らはそれを知っていました。そんな人間の優しさを感じました。画面の隅まで目を配りながら、もう一度じっくりと見てみたい作品です。

ガイが警察に連れていかれたときのサイの表情が、とてもステキです。サイを演じたコ・ドヒちゃんは、1994年生まれの10歳の女の子です。しかし、大人たちの中にあっても、しっかりとした演技で存在感がありました。

▲ページのトップへ