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 アフガン零年

2004年3月

OSAMA

アフガン零年

  • 監督:セディク・バルマク
  •   
  • 出演:マリナ・ゴルバハーリ、モハマド・アリフ・ヘラーティ、
       ゾベイダ・サハール、ハミダ・レファー

2004年 アフガニスタン=日本=アイルランド映画 82分

  • 2004年ゴールデングローブ賞外国映画賞
  • 2003年カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督作品)特別賞
  • 2003年ニューデリー映画祭シネファン最優秀女優賞
  • 2003年釜山国際映画祭ニューカレンツ特別賞・観客賞
  • 2003年バリャドリッド映画祭 最優秀作品賞/その他、多数受賞

NHKが行っている文化事業に「アジア・フィルム・フェスティバル」があります。これは、NHKがアジアの映画監督と一緒に映画を共同制作するプロジェクトです。映画「アフガン零年」は、NHKとアフガニスタンのセディク・バルマク監督が制作した作品で、たくさんの賞を受賞しました。

アフガニスタンでは、タリバン政権時代、映画の制作や上映が禁止されていました。タリバン政権以前に、アフガン・フィルムの幹部として活躍していたバルマク監督もタリバンの迫害を逃れ、絶望のうちにパキスタンで難民として過ごしました。タリバン政権崩壊後、アフガニスタンに戻ったバルマク監督の第一作目の映画が、「アフガン零年」(原題:OSAMA)です。この作品は、タリバン政権が映画を禁止してからはじめて製作された、アフガニスタン人監督による映画の第1作となりました。

出演している人は、みな素人です。主人公のオサマを演じたマリナは、物乞いの生活をしていた少女で、マリナの目の中にある深い悲しみが監督の心を捉えました。少女の母と祖母は難民キャンプにいた女性であり、お香屋の少年役のアリフは、実際にお香屋だそうです。

タリバン政権が崩壊したことによって、いろいろな圧政から解放されたアフガニスタンに、今、ようやく希望が持てるようになりました。バルマク監督は、最初、明るい時代になったことを映画で示したいと、「虹」というタイトルにしようと思っていました。しかし、撮影のときにマリナの涙に触れ、「アフガニスタンの悲劇はまだ終わっていない。今、虹を描くのは嘘になる」との思いから、ラストシーンに考えていた虹をカットし、苦しい現実を世界に訴える作品としました。

物語

タリバン政権下のカブール。お香屋の少年(モハマド・アリフ・ヘラーティ)が、外国人ジャーナリストに、厄よけのお香をすすめ1ドルをもらう。ジャーナリストは、通りがかった2人の母娘にもお香屋をすすめるよう少年に言うが、母親(ゾベイダ・サハール)は断る。ジャーナリストのカメラは、3人を追っていくうちに女たちのデモを映し出す。デモの女性たちは、女性でも働けるようにと仕事を求めてのデモだった。と、そこへタリバン軍がやってきて、発砲しながら、放水で女たちを追っていく。この騒動に巻き込まれた母娘、お香屋は、恐怖の中、なんとか難を逃れるが、逃げ遅れた女たちは、タリバン軍に捕らえられ、牢へと送られていった。

少女(マリナ・ゴルバハーリ)は、父親や兄など男性を戦争で失い、貧しさの中、祖母、母と3人でくらしていた。タリバン政権下では、女性は身内の男性と一緒でないと外出できなかったし、働くこともできなかった。ある日、看護婦として働いていたが母親の仕事がなくなり、生活に困るようになった。男性がいない家庭となった境遇を嘆きながら、母親は言う。「この子が、男の子だったら……。」

祖母(ハミダ・レファー)と母親は、男の子として働いてもらうために、少女の髪を短く切ることにする。少女は、タリバンの放水に逃げまどったときの恐ろしさを思い出し「ばれたら、タリバンに殺される」と恐怖におびえるが、祖母は虹の昔話をして少女をなだめる。

こうして少年となった少女は、父親の友人だったミルク屋で働くことになる。しかし、道を歩くのも、ミルク屋での客の応対も恐怖だ。少女はミルク屋から、音程が高いのでしゃべらないようにと言われる。

ミルク屋と一緒に、会堂での祈りに参加し、祈りの前の清めの方法を教わる。しかし、ある日、町のすべての少年がタリバンの神学校に集められる。不安に襲われる少女を、力づけてくれるのはお香屋だった。

ターバンの巻き方、コーランの暗記、庭での遊び……。少女は、少年たちの中で、必死に一つひとつをこなしていく。しかし、難しいことがやってきた。男性としての清めの仕方の授業だ。それもどうにか終わるが、周囲の少年たちは不信がる。「女だろう」とはやし立てる少年たちに、お香屋は「彼の名はオサマだ」と言って少女を守る。そして、男だと証明するために少女を木に登らせる。少年たちが、みな木の下に集まって来た。

騒ぎに気づいたタリバン兵によって、少女は罰として井戸につり下げられる。「お母さ~ん」と泣き続ける少女の声が響き渡る。やがて、少女は井戸から引き上げらるが、その足には血が流れていた。少女は、初潮を迎えたのだった。

「女だ」「女だ」と少年たちに追いかけられ、校庭を逃げまどう少女に、お香屋は、涙を流すしかなかった。タリバン兵に捕らえられた少女は、ブルカを被せられ牢に入れられる。牢には、大勢の女性たちが捕らえられていた。医療活動のために海外からやってきた白人女性もいた。そして、裁判のときがきた。

アフガン零年

大勢の男性が見守る中、裁判と処刑が行われた。最初は、あのジャーナリストだった。映像を撮ったことから、スパイの罪で銃殺された。次の白人女性は、石打ちの刑となった。そして、少女の番が来た。

 

バルマク監督にインタビューした「クローズアップ現代」また、バルマク監督の映画作りの様子を撮影したNHKスペシャル「マリナ~アフガニスタン・少女の悲しみを撮る~」をご覧になった方もいらっしゃると思います。「マリナ~アフガニスタン・少女の悲しみを撮る~」は、教育番組に送られる「日本賞」(NHK主催)で、昨年、文部科学大臣賞を受賞しました。

イランのモフセン・マフマルバフ監督によって撮影された「カンダハール」からはじまって、アフガニスタンの現状を知らせてくれる映画が、日本でも次々に上映されましたし、これからも上映が続きますが、祖国を撮り続けているアフガニスタン人の監督の作品として、ぜひご覧ください。マリナはじめ、女性たちの心の深い傷が癒える日は、いつ来るのでしょうか。

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