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 珈琲時光

2004年9月

こーひーじこう

珈琲時光

  • 監督:侯 孝賢
  •   
  • 脚本:朱 天文
  •   
  • 出演:一青窈、浅野忠信、余貴美子、小林稔侍

2003年 日本映画 103分

  • 小津安二郎誕生100年記念
  • 第61回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品
  • プサン国際映画祭Asian Filmmaker of the year受賞

小津安二郎監督の生誕100年を記念して製作されたもので、小津監督を敬愛する中国の侯孝賢監督の作品です。マスコミ向けの試写会が終わり、後は公開を待つばかり……という段階になっても、侯監督は、さらによい作品の仕上がりを求めて編集を重ねたという、思い入れの作品です。小津監督のように、カメラの位置が低かったり、ごく普通の生活を、淡々と追っていったりして、現代の「東京物語」ができあがりました。

映画の中には、中国人の監督が見た日本の景色があふれています。俳優さんたちには、状況を説明しただけで、セリフはほとんどがアドリブとか……。ボソボソという日常会話が続き、演技なのかありのままなのか区別がつきません。一青窈(ひとと よう)が演じる主人公・陽子という若い女性の日常を、盗み見ているような感じです

物語

フリーライターの陽子(一青窈)は、昨日、台湾から帰ってきた。洗濯物を干しているところへ、神保町にある古本屋の主人・肇(浅野忠信)から、携帯電話がかかる。陽子が探していた江文也についての資料が見つかったという連絡だった。陽子は、台湾人の音楽家・江文也について調べていた。台湾へも、江文也のことで行ったのだった。陽子は、肇へのおみやげとして、台湾で探し出した懐中時計を持って部屋を出た。

珈琲時光

肇は、電車の録音が趣味だった。だから、時間があると、大きなマイクを持って駅に行っている。

陽子は、墓参りのために、両親のいる高崎に向かった。駅には、父(小林稔侍)が、車で迎えに来ていた。家についた陽子は、あいさつもそこそこに、座敷にごろんと横になり、夕食になっても起きることができなかった。夜中、空腹を感じて起きてきた陽子は、ごはんを出してくれた母に、今、妊娠していると伝えた。

お墓参りの後、3人はラーメン屋で食事をした。両親は何か言いたそうだが、結局何も言うことができなかった。

東京に戻った陽子は、肇に手伝ってもらいながら、江文也の取材を続けていた。ある日、肇と待ち合わせているお茶の水の駅に行くために電車に乗った陽子は、急に気分が悪くなる。部屋に戻り休んでいると、肇が尋ねてきた。肇は陽子のために食事をつくり、それを食べている陽子に尋ねる。
 「どうしたの? 気分が悪くなったの?」
 「うん、今、妊娠しているから、そのせいだと思う」
 肇は驚くが、それ以上、何も尋ねなかった。落ち着いてきた陽子に、肇はコンピュータで描いた電車の絵を見せる。陽子は、ステキだと言ってノートパソコンの中の画像を見続けた。肇のやさしさが伝わってきた。

ある日、両親が上京してくる。陽子は、母が持ってきてくれた大好きな肉じゃがにむしゃぶりつく。結婚はしないのかと問う両親に、相手は日本語を教えていたときの陽子の生徒で、今タイにいるが、すごいマザコンなので、結婚したら大変だから一緒になるつもりはないと答える。淡々と話す陽子に、両親はとまどう。

珈琲時光


 

カメラに背中を向けたり、狭いところから部屋をのぞいているような撮影の仕方も、“日常”という雰囲気を助けているのかもしれません。しかし、その“日常”感が、とても心地よいのです。駅のホーム、電車の中の人々、電車が走り去った後に人々が渡る踏切、街灯に照らしだされる歩道橋、路地にある寿司屋の裏口、常連たちがくつろぐ喫茶店のカウンター、母親が包丁を握る台所とちゃぶ台のある茶の間……。どのシーンも、普段の生活の中で、私の目線から見えてくるものが描き出されています。

また、お話の内容も、映画で取り上げるような劇的なストーリーではありません。今の時代、どこかにありそうなお話です。映画は、都会で暮らす一人の女性を描くというよりも、彼女が生きている日常や街を描いているようにもみえます。

人は、毎日当たり前のように接している多くの人びとや街のあたたかさに囲まれて生きているのだということが、ジワジワと伝わってきます。見ているうちに、私が毎日生活していて目に入る、街や人の様子を、この映画のようにカメラ目線で見直してみたらおもしろそうだなと思いました。

映画初出演の一青窈が、自然体でとてもすてきでした。人間が持っている、なにげない優しさに触れた感じで、大切にしたい映画になりました。

※「珈琲時光」とは:  珈琲を味わうひととき。気分転換し、気持ちをリセットして自分の人生に立ち向かうことができるような、短いけれど貴重で濃厚な時間という意味が込められています。
                                  (「珈琲時光」映画チラシより)

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