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イブラヒムおじさんとコーランの花たち
2004年11月
- 監督・脚本:フランソワ・デュペイロン
- 原作・脚本:エリック=エマニュエル・シュミット
- 出演:オマー・シャリフ、ピエール・ブーランジェ、イザベル・アジャーニ
2003年 フランス 95分
- ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネート
- ヴェネチア国際映画祭特別功労賞、観客賞受賞
- ナショナル・ボード・オブ・レビュー トップ5外国語映画賞受賞
- セザール賞主演男優賞受賞
- ゴールデン・サテライト賞外国語映画賞、助演男優賞ノミネート
- シカゴ国際映画祭主演男優賞受賞
- 第17回東京国際映画祭特別招待参加作品
母親がいず、自分の良さを認めてくれない父親と暮らしている少年は、人生の喜びを見出すことができないでいます。彼は女性に関心を抱き、性にめざめていく思春期を迎えているのですが、父親は自分のことで精一杯。野放し状態になっている少年の、なんと危険なことか。若い力が、間違った方向に向いていく。そこに登場したのが、食料品店を営むトルコ人のおじいさん。あぶなっかしい生き方をしていく少年を、ゆっくり、あたたかく包みこんでいきます。
物語
1960年代はじめ、パリの裏通りのユダヤ人街。13歳の少年・モモ(ピエール・ブーランジェ)が住むアパートの窓からは、道行く人に声をかけている娼婦たちが見える。黒人の娼婦には、なかなかお客がつかないようだ。モモは、初体験をすることで大人になれると思っている。貯金箱の小銭をもって、食料品店に入る。店主のイブラヒム(オマー・シャリフ)に両替をしてもらい、通りに立っている娼婦たちに声をかける。16歳だとうそをついても、「子どもはだめよ」と、みな相手にしてくれない。しかし、その中の一人が応えてくれた。娼婦の部屋に入り、こうしてモモは大人になった。
モモの母親は、モモが生まれてすぐ、兄をつれて家を出ていた。父親は、優等生だったという兄とモモをくらべて、モモに小言をいい、すぐ叱りつける。父親は、毎朝必要な食事代をモモにあずけ、モモは食事を作って父の帰りを待っている。しかし、モモは娼婦のところへ行くためのお金を作る必要があった。モモは、イブラヒムの店で食料品をくすね、父にウソをついてお金を作っていた。しかし、イブラヒムは、モモが娼婦のところへ行きたいと思っていることも、万引きしたことも、すべてお見通しだ。イブラヒムはモモを叱りつけるようなことをせず、「盗みを続けるならうちの店でやってくれ」と答える。
モモの生活が苦しいことを知っているイブラヒムは、モモに生活の知恵を教えてくれる。モモを叱るようなことをせず、話しを聞き、コーランの話や、『笑ってごらん……幸せになれるから』という人生に大切なことを教えてくれる。2人は次第に親しくなっていった。ある日イブラヒムはモモと買い物にでかけた。モモは靴を買ってもらい、うれしそうだ。イブラヒムも、モモに慕われてうれしい。モモはイブラヒムを尊敬し、イブラヒムはモモがかわいい。
ある日、父が、突然仕事を解雇された。生きていく力を失った父親は、数日後、モモをおいて家を出て行った。しばらくして、父親が鉄道自殺をしたという知らせがモモに届く。父を失ったモモは、自分を養子にしてくれとイブラヒムに頼む。イブラヒムも喜び、養子縁組の手続きをはじめる。
イブラヒムは、店を売って作ったお金で、運転免許を取り、赤いスポーツカーを買って、イブラヒムの故郷トルコへと出発する。そこは「黄金の三日月地帯」のトルコだと、イブラヒムは胸を張る。フランス、スイス、アルバニア、ギリシャへとイブラヒムとモモの旅は進むが……。
母親にも父親にも捨てられたモモ。大人の世界に入りたいと、背伸びをしているモモ。娼婦たちのところへ行くのは、母親を求めているからかもしれません。イブラヒムのもとへ行くのは、父親を求めているからかもしれません。イブラヒムから、モモは人生のいろいろなことを学んでいきます。またイブラヒムも、モモとの出会いによって変わっていきます。血縁、年齢、人種、宗教を超えて、人と人が影響しあって生きていく、人生の奥深さを垣間見るような、味のある作品です。まさに、イブラヒムを演じるオマー・シャリフのような味わいです。