お薦めシネマ
村の写真集
2005年5月
- 監督・脚本:三原光尋
- 音楽:小椋佳
- 出演:藤竜也、海東健、宮地真理、ペース・ウー、原田知世
- 写真監修:立木義浩
2004年 日本映画 111分
ダムの建設が決まり、村がダムの底に沈むことになった徳島県花谷村。その村に一軒の写真館があった。看板はかかっているが、店にはカーテンがひかれている。過疎化が進む村では写真の仕事も少なくなり、店主である研一(藤竜也)は、土木作業の現場で働いていた。妻はすでになく、高校生の次女・香夏(宮地真理)と二人暮らしである。長女(原田知世)は、父親に結婚を反対されて家を出たまま、今は行方がわからない。長男の孝(海東健)も、父に反発し、写真家になると東京に出て行った。
ある日、アルバイトに忙しい孝のもとに、村役場から電話が入った。家々がダムの底に消えていく前に、村の人々の家族写真集を作ることになり、研一に撮影をお願いしたので、孝に研一を助けてほしいというのだった。孝は、父には東京で見習いカメラマンをしていると言っていたが、実はまだ見習いとしてやとってくれるところを探している状態だった。村を出てきた孝にはいまさら帰るつもりはなかったが、恋人のリン(ペース・ウー)のすすめもあって、村へ向かうことにした。
父と息子の写真撮影がはじまった。村役場では撮影のために車を用意してくれたが、研一は一軒一軒、歩いて家族を訪問するという。研一は背広にネクタイという姿でカメラを担ぎ、孝は三脚を肩にして父の後に従った。二人の間に会話はなかった。父の後ろ姿を見ながら、数メートル離れて歩く孝。山の上の家まで、急な道を歩く二人。孝は父のやり方に反発しながらも、家族の人々の自然な表情を撮っていく研一の姿には、かなわないものを感じていた。撮影が終わると、研一は家族に向かって深々と頭を下げ「ありがとうございました」と言て帽子をとった。最初で最後の村の人々の家族写真だった。
孝は、美しい山の道を歩きながら、研一と村の人々の会話を聞くうちに、父の村での生活が見えてきた。また、村に残って家業を継いでいる同級生たちの姿から、孝は何かを感じはじめていた。
家族写真の撮影は順調に進んで行った。残りわずかとなったある日、研一が倒れる。研一は、体が悪いことを知りながら、村のために力を振り絞っていたのだ。孝は病の床についた研一に代わり、残された家族写真を撮影しようと決心する。しかし、いくらシャッターを押しても、研一のような生き生きとした写真を撮ることができなかった。同級生は孝に教えてくれた。研一は、東京に行った孝を自慢していた、と。研一は若いとき、写真家になろうと夢を持っていたが、果たせなかった。その夢を孝に託していたのだ。父の思いをはじめて知った孝は、最後の写真は、研一に撮らせようと思う。カメラを入れたリュックを背負った父が、孝の前を歩いていく。以前のような距離は、二人の間には、もうない。
父親役の藤竜也が、とてもすてきです。年を重ねないと出ない味わいというのでしょうか。撮影に向かう真摯な姿、シャッターを押すときと、終わった後の村の人々へのやさしいまなざしが、なんともいえません。若い人には出せない人間の味わいを感じました。家を出ていった長女は映画の終わりにしか出てこないのですが、それまでの研一、孝、香夏の会話から長女との関係はわかっているので、最後の父と娘の出会いは観客を一気に涙へと誘いました。
家族とは、反発したり、気持ちをうまく伝えることができなかったりするものですが、それでも心の底では互いに気にしあっているものです。そんな家族の関係を育んでいるのは、故郷の美しい風景であり、土地の人々であることを、しみじみと味わいました。わたしたちは“土地の力”に養われているのですよね。でも、そういう土地は、日本には少なくなりました。