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 樹の海

2005年6月

JYUKAI

樹の海

  • 監督:瀧本智行
  • 脚本:青島武、瀧本智行
  • 音楽:吉川忠英
  • 主題歌:「遠い世界に」歌:AMADORI(EPICレコード)
  • 出演:萩原聖人、池内博之、津田寛治、塩見三省、井川遥、小嶺麗奈
  • 製作:『樹の海』製作委員会

2004年 日本映画 119分

  • 2004年東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」作品賞・特別賞受賞

日本は“自殺大国”といわれ、年間3万4千人を超える自殺者が出ています。近年は、ネットで自殺者を募集し、集団自殺をはかるケースもあり問題になっていますが、昔から自殺の名所として有名なのが、富士山の裾野にひろがる“青木ケ原の樹海 ”です。「一度入ったら2度と出ることができない」と言われているこの樹海は、30km2~40km2の面積を持ち、その一部は「富士の原始林」として国の天然記念物にも指定されています。富士山の噴火によってできた溶岩の上に、長い年月をかけてコケや樹木が茂っていったもので、うっそうと茂る木々の中、足もとは溶岩が木の根でおおわれ、道はなく、方向が分からなくなってしまいます。この、再び元に帰ることができない場所である樹海に、人生の苦しみから逃れるために、多くの人が入り込んでいきます。

映画は、自殺者をとりまく4つのお話が交錯しながら進んでいきます。借金を返すことができず、どう生きていったらいいかわからなくなって樹海に入り込んだ若い女性(小嶺麗奈)。その女性から、足をねんざしたという電話をケイタイに受けて、樹海へと向かう金融業の男性(池内博之)。暴力団から暴行を受け、寝袋に入れられて樹海に捨てられた若い男性(萩原聖人)と、首つり自殺をした中年男性の遺体。樹海で亡くなった女性の調査を依頼され樹海にやってきた興信所の探偵(塩見三省)と、その女性の所持品であった写真に写っていた会社員(津田寛治。ストーカー行為のため、都市銀行勤めというキャリアを捨て、今は駅の売店で働きながらひっそりと暮らす若い女性(井川遥)と、売れたことのないネクタイ。

人は、なぜ、自らいのちを断とうとするのでしょうか。死に場所としての樹海に、何を求めて入っていくのでしょうか。本当に死にたいのでしょうか。死に場所である樹海に踏み込んだ人が、深い木々の中をさまよいながら、自分の心と向き合っていきます。さらに、自殺者とかかわる人も、自分の人生と正面から向かい合わされます。

奥へ入り込み、方向が分からなくなってふと上を見ると、木々の上にはまぶしい太陽があり、やさしい木漏れ日が樹海に差し込んでいます。樹海は緑に包まれた、美しいところでもあります。樹海は外界と遮断され、世間から身を守ってくれているところでもありますが、光を浴びた木々や、草、コケなど、生命力に満ちた場所でもあったのです。

4つのエピソードに出てくる人物に共感しながら、映画を見ている自分に気がつきました。本当は、みんな生きたかったのではないか、助けを求めていたのではないか。道に迷わないようにと張られたビニールテープや、一本一本の木の幹に張られた紙切れが、それを証明しています。「自殺はしてはいけない!」「生きてほしい!」そんなメッセージが、静かに語られる作品です。とても深いものが込められている映画です。

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