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 MY FATHER

2005年7月

マイ・ファーザー

MY FATHER

  • 監督:エジディオ・エローニコ
  • 原作:ペーター・シュナイダー「Vati」
  • 脚本:ゲラルド・バリエイ
  • 音楽:リッカルド・ジャニ
  • 出演:トーマス・クレッチマン、チャールトン・ヘストン、F.マーレイ・エイブラハ ム
  • 配給:アルシネテラン

2003年 イタリア=ブラジル=ハンガリー合作映画 112分

  • 2004年ベルリン国際映画祭 特別上映作品
  • 2004年上海国際映画祭 監督賞ノミネート
  • 2004年第11回大阪ヨーロッパ映画祭上映作品

「MY FATHER」は、息子が父とどのように向き合い、どのようにして父親を越えていくのかという父と子の物語です。他人より優れた存在でありたいという欲求から他者を低く見てしまうという、人間の本性に問いかけられる映画です。さらに、人間が背負う「罪」について考えさせられる作品です。このように、「MY FATHER」はヨゼフとヘルマンという父子をとおして、現代社会に生きる私たちにさまざまな問いかけを発している深い内容の作品です。

主人公であるヘルマンの父ヨゼフ・メンゲレという人は実在の人物で、ナチス・ドイツ軍の医師として、アウシュビッツの収容所で数々の人体実験を行いました。特に双子に興味を持って研究し、その犠牲となった双子の数は3,000人と言われています。

ナチス・ドイツ軍の崩壊が間近に迫った1945年1月にナチス軍から逃亡し、敗戦後は戦犯として追われる身となりました。1949年にアルゼンチンに渡り、その後、パラグアイ、ブラジルへと姿を隠します。1985年、メンゲレのものと思われる白骨が発見されました。息子ヘルマンが遺体は父だと証言した後も、1992年のDNA鑑定でメンゲレ本人の骨であることが確認されるまで、いろいろな憶測が流れました。

映画は、1985年、ブラジルのマナウスという町の郊外の墓地で、白骨死体が見つかったところからはじまります。この骨は、アウシュビッツ強制収容所で人体実験を行い、“死の天使”と呼ばれていた恐るべきヨゼフ・メンゲレ(チャールトン・ヘストン)のものなのか? このニュースを知って、世界中の報道関係者が集まって来ました。群衆の中には、アメリカ人弁護士のポール・ミンスキー(F.マーレイ・エイブラハム)、そして、メンゲレの息子のヘルマン(トーマス・クレッチマン)もいました。ヘルマンの姿を見つけた女性が叫びます。「人殺し!」彼女の腕には、ユダヤ人の印が刻まれていました。

ホテルに泊まるヘルマンの部屋の窓の下には、大勢の群衆が集まって叫んでいます。ヘルマンの部屋を訪れた弁護士のポール・ミンスキーは、ヘルマンが真実を語らなければ、民衆は納得しないだろうと告げます。ミンスキーは、アウシュビッツ強制収容所での人体実験から、奇跡的に助けられた双子たちの損害賠償を求めるために、ニューヨーク・ユダヤ人協会から雇われた弁護士でした。ミンスキーは、メンゲレから治療を受けたとされる被害にあった双子のカルテを見つけ、また、メンゲレの死を確認するために、ヘルマンのもとを尋ねたのでした。

ヘルマンが父親の死をでっち上げているのではないかと疑っているミンスキーに対し、ヘルマンは、8年前にマナウスを訪れて、はじめて父と出会ったときのことを語りはじめます。

ヘルマンにとって、父はどのような存在であったのか……。ヘルマンの記憶は、幼いころへともどっていきます。母と二人で暮らしていたヘルマンは、「メンゲレ」という名字のゆえに、毎日のように学校でいじめられていました。「メンゲレ」という名は、人々を恐れさせる名字だったのです。父親のことを何も知らされずに過ごしていたヘルマンに、ある日、母は真実を告げます。

35歳になったとき、ヘルマンはブラジルにいる父に会いにいく決心をします。父を理解するために、自分の目で父を確かめたかったのです。そこには、質素な生活をしている年老いた父の姿がありました。しかし、ヘルマンは、疑いの目をもって父の日常生活を冷ややかに見つめていきます。

 

メンゲレは、息子ヘルマンと二人きりになった森の中で語ります。「優れた存在である自分たちのために、劣った存在は奉仕し、犠牲になって当然だ!」と。これは、ナチズムの思想の重要なポイントですが、これはナチスだけに限ったことではなく、旧ヨーロッパの体質の中にしみ込んでいるものだとエジディオ・エローニコ監督は言います。さらに、「ナチズムがもたらしたと同じ危険は、現在でも世界中に存在している」と。

すべてを語り終えたヘルマンに、ミンスキーは言います。「父の罪は、あなたの一族におよぶ」と。過去の痛ましい出来事の責任をどう取っていくのか。日本の戦争責任の取り方と比べてしまいました。 父親の罪を、ここまで子が負わなくてはいけないのでしょうか。このような戦争犠牲者の苦しみもあるのだと、戦争の痛ましさについて考えさせられた作品でした。

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