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 マラソン

2005年7月

Marathon

マラソン

  • 監督:チョン・ユンチョル
  • 脚本:ユン・ジノ、ソン・イェジン、チョン・ユンチョル
  • 音楽:キム・ジュンソン
  • 出演:チョ・スンウ、キム・ミスク、イ・ギヨン、ペク・ソンヒョン、アン・ネサン
  • 配給:シネカノン/松竹

2005年 韓国映画 117分

  • 第41回百想芸術大賞 大賞、男優最優秀演技賞、脚本賞
  • 第28回黄金撮影賞 新人監督賞、人気男優賞

自閉症の子を持つ母親の奮闘と孤独と、走ることでその母の愛に応えようとする自閉症の息子の成長を描く、感動のドラマです。映画のモデルは実在の人物で、19歳のときに、2002年チュンチョン国際マラソンに参加したペ・ヒョンジンさんです。ヒョンジンさんは、健常者でも困難なきつい上り坂が続くコースを2時間台で完走し、話題となりました。30代のチョン・ユンチョル監督は、 ヒョンジンさんと1年間マラソンを走り、その体験からこの映画が生まれました。母と自閉症の息子、それをとりまく家族、コーチなど周囲の人々の思いが、繊細に、ときにユーモラスに表現されています。

ヒョンジンさんのお母さんが書いた『走れ、ヒョンジン』(ランダムハウス講談社刊)を蓮池透さんが翻訳し、話題になりました。

物語

自閉症の息子チョウォン(チョ・スンウ)をもつ母親のキョンスク(キム・ミスク)は、息子にことばを覚えさせようと、一生懸命だった。降りしきる雨の中に出ていき、手のひらに雨のしずくを感じさせながら、「雨がザーザー降っています」という言葉を何回も繰り返し、チョウォンに話させようとした。しかし、キョンスクの努力はなかなか実らず、チョウォンから言葉は出なかった。スーパーなどで騒ぎを起こすと、「この子は障害者なんです!」と周囲に叫びながら、チョウォンを抱きしめるだけだった。 「息子より、一日でも長く生きること」これが、キョンスクの願いだった。

遊園地に行ったとき、言うことを聞かないチョウォンに手をやいたキョンスクは、一瞬、チョウォンの握る手を離してしまう。キョンスクは疲れきっていた。キョンスクがチョウォンの成長に一生懸命になっていく陰で、夫(アン・ネサン)は家にもどらなくなっていた。

チョウォンの好きなことを見つけてそれをやらせようと思っていたキョンスクは、あるとき、チョウォンの目が輝いているのを見た。それは、彼が走っているときだった。「チョウォンの脚は、100万ドル!」と言ってチョウォンの脚をさすりながら、キョンスクは彼を走ることへと導いていった。チョウォンが、ハーフマラソンで3位に入賞したことから、次はフルマラソンを3時間以内で完走するという目標を定め、そのために、チョウォンに本格的なコーチをつけることにした。

マラソン
(c)2005 Showbox/Mediaplex. Inc-dist. by Cine Qua Non

キョンスクがコーチに選んだソン・チョンウク(イ・ギヨン)は、かつて、ボストンマラソンで3位に入ったという経験の持ち主だった。しかし今は落ちぶれ、飲酒運転の罰として、社会奉仕にチョウォンの学校にやってきていた。チョンウクは毎日、グランドのベンチに寝そべるだけで、なかなかチョウォンの指導をしてくれず、チョウォンは、コーチの悪いくせを覚えるだけだった。

チョウォンからチョンウクの様子を聞き出したキョンスクは彼に不信を抱き、チョンウクに文句を言う。しかし、チョウォンとの間に信頼関係ができはじめていたチョンウクは、「チョウォンが母親なしで生きられないのではなく、あなたが息子なしでは生きられないのだ!」「チョウォンは見捨てられるのが怖くて、あなたの言うことをきいていたのだ!」と、反対にキョンスクを責めた。

こうして、チョウォンはチョンウクと別れることになった。チョウォンの手には、チョンウクが買ってくれた運動靴が握りしめられていた。

そんなとき、弟のジュンウォン(ペク・ソンヒョン)が警察に補導される。警察に迎えに行ったキョンスクは、ジュンウォンから「一度でもおれの身になって考えてくれたことがあるか? 大事なのはチョウォンだけだ!」と言われてしまう。またあることから、小さいとき動物園で迷子になったことを、チョウォンが憶えていたことを知ったキョンスクは、がく然とする。これはキョンスクにとって辛い思い出だった。キョンスクが動物園でチョウォンの手を離したとき、一瞬だがチョウォンを捨てようと思ったのだ。

そんな中で、キョンスクは胃の痛みを抑えきれず倒れてしまう。病院のベッドに横たわったキョンスクは、駆けつけた夫に言う。「チョウォンの好きなことを見つけてあげたかった。しかし、気づいたら私が夢中になっていた。生き甲斐を失う気がして、やめることができなかった」と。自分のしてきたことを反省したキョンスクは、チョウォンに走ることをやめさせようと決心をする。

しかし、チョウォンの体はムズムズしだしていた。そして、チュンチョン国際マラソンの日は近づいていた。

 

主人公のチョウォンを演じるチョ・スンウは、自閉症の子どもたちの特徴的な動きや純粋な心を、素直に演じていました。さらに、障害がある子どもを持った親の苦労と喜びをストレートに表現していた母親役のキム・ミスクがステキでした。とてもきれいな女優さんですが、どこにでもいるようなお母さんとして、とても庶民的でした。弟役のペク・ソンヒョンも、反抗していた心が、次第に兄と母を応援するようになり、最後に包み込む愛で抱きしめる姿は印象に残りました。

この映画のもう一つの見どころは、韓国の風景や人々の暮らしです。母親のキョンスクが、幼いチョウォンの手をひいて、市内を見渡せる山に登る場面があります。山の頂上に立った二人の眼下には、マンションの高層ビルの林立する街が広がっています。すごい近代都市です。うってかわって、チュンチョン国際マラソンの場面では、美しい自然の中を走ります。太陽の光が、木々の葉や草原を照らし、とてもきれいです。そして、チョウォンの家には、チョウォンの写真の横に、イコンの聖母子の額が飾られています。韓国の家庭の様子がわかります。

自閉症の子とその家族……というテーマではなく、一人ひとりの子どもとどのように関わっていくのか、という、親子の普遍的なドラマとしてすばらしい作品です。一度は、崩壊しかけた家族が、今までの思いを語ることによって相手の思いが理解でき、そこからまた互いが結ばれていくという、コミュニケーションの大切さも伝わってきます。

全力を傾けて、ひたすら走ったチョウォンを抱きしめる人々の中に、自分もいるような気分になり、思わず涙が出てしまいました。走ることがうれしくなります。感動の涙の中にも、いろいろなことを語りかけている「マラソン」を、ご家族で、ぜひご覧ください。

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