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 わたしの季節

2005年8月

わたしの季節

  • 監督:小林茂
  • 撮影:小林茂、松根広隆
  • 配給:協映

2004年 日本映画 107分

  • 2004年毎日映画コンクール<記録文化映画賞・長編>受賞

1963年、西日本で最初の、医療と教育の機能を持つ重症心身障害児(者)施設、“びわこ学園”が開設されました。びわこ学園は、「どんな重い障害があっても、子どもたちは個性的な自己を実現している。人間として生まれて、その人なりの人間となっていく」と、世に訴え続けました。「この子らが光輝くものにしていこう」という理念をかかげた 故・糸賀一男によって、戦後まもなく創設された近江学園にさかのぼります。

びわこ学園開設の3年後に、“第2びわこ学園”が開設されました。当時の日本は高度経済成長期で、福祉への関心はまだ低く、重症児の世話は、貧困と偏見の中で、家族に委ねられていました。学齢期になっても放置されており、友達もないわが子を思う親たちは、学校と教育の機能をあわせた施設に、半信半疑で子どもたちを預けたのでした。

あれから40年、子どもだった人たちも年齢を重ねて50代になっています。 第2びわこ学園の建物の老朽化が進み、2000年に新築移転の話が出たとき、「彼らが生きてきた40年の証しを残したい」と、映画製作の話が持ち上がりました。 「わたしの季節」は、びわこ学園に暮らす人々の日常生活をフィルムにおさめた、4年間の記録映画です。監督は、「阿賀に生きる」で現地の人々とともにくらしながらカメラを回した小林茂です。カメラは、学園で暮らす一人ひとりの日常を追いながら、そこに家族の思いを重ね、スタッフの姿をさりげなく映していきます。

わたしの季節

びわこ学園には、個性的な人=芸術家がたくさんいます。とくに、粘土の作業場には、個性的な作品がたくさん並んでいます。彼らの粘土との関係は、作品として製作するというだけではなく、粘土の一体になっているのです。粘土は、彼らの心を解放してくれるもののようです。

わたしの季節 わたしの季節

まったく動けない子もいます。13歳の大介君が動かすことができるのは眼球だけです。生まれてすぐに人工呼吸器をつけ、8年間、大学病院で暮らしました。おかあさんは、「せっかく生まれてきたのだから、地球のいいこと感じてほしい」と、大介君を第2びわこ学園に入れました。おかあさんは毎日学園にやってきて、入浴を手伝いながら大介君に話しかけています。スタッフも、いつも話しかけてくれます。

公明(こうめい)さんは、小さいとき他の子どもたちへの危害が激しくなり、13歳のときにびわこ学園に来た。今、51歳になった。粘土作りが大好きだ。ある日、お兄さんが迎えに来た。「公明、行くで。靴、ちゃんとはいたか?」お兄さんにつれられてやってきたのは、スーパーのお菓子売り場。公明さんは、うれしくて、手にするものを全部カゴの中に入れていく。お兄さんは、お菓子でいっぱいになったカゴをレジに運ぶ。公園に来た2人は、ベンチにすわり、「宴会や、宴会!」と、缶コーヒーを飲みながらのお菓子の宴会をはじめる。公明さんは、スタッフへのおみやげを残して学園に戻った。

うつ伏せ状態のままの40代の女性は、家族への不満があります。旅行に行きたいのですが、なかなか理解してもらえないのです。彼女は言います。「ストレスがたまります。言いたいことはあります。ゆっくりと話を聞いてほしい。わたしの言うことを、ゆっくりと時間をかけてほしい聞いてほしい。言いたい、けれど言いません。父に叱られるから。だから、けっして言いません!」切なくなります。

障害児(者)たちは学園の中で、とても大切にされています。家族だけでなく、生活の世話をするスタッフも医療スタッフも、作業を指導する先生たちも、障害児(者)たちをそのまま受け入れています。映画を見ながら、一つの疑問が出てきました。「なぜ、彼らは、こんなに大切にされるのだろう? スタッフたちは、どのような思いで、毎日一緒に暮らしているのだろう?」スタッフや粘土作品の指導者である先生たちは、画面のすみにしか出てきません。しかし、スタッフの方々が優しく接しているのは、よくわかります。

映画を見た後も、考えました。スタッフたちの姿から見えてきたのは、「人間はこの世に“生(せい)”をいただいている、そのこと自体が尊いのだ」というメッセージです。どの人もいただいている“生”、それゆえに、お互いが大切にしあわなくてはいけないのだということです。障害者は、自分で自分を守ることができません。だから、「あなたの“生”を、まわりのわたしたちが支えますよ」と。家族やスタッフたちの、「神様からいただいた“生”は宝だ」という無言の祈りを感じるドキュメンタリー映画です。

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