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 ランド・オブ・プレンティ

2005年10月

LAND OF PLENTY

ランド・オブ・プレンティ

  • 監督・脚本:ヴィム・ヴェンダース
  • 音楽:トム&ナクト
  • 主演:ミシェル・ウィリアムズ、ジョン・ディール、
         リチャード・エドソン
  • 配給:アスミック・エース

2004年 アメリカ・ドイツ合作映画 2時間4分

  • 2004年ヴェネチア国際映画祭 コンペティション正式出品、ユネスコ賞受賞

アメリカで生まれ、アフリカ、イスラエルで育った20歳のラナと、ベトナム戦争に参加したことがあり、そこでの恐怖の体験から、一人、アメリカを守るために、警戒しているラナの伯父ポールの物語です。2人を追っていくうちに、ポールの姿に現代のアメリカ国家が重なってみえてきます。また、弱者を助けるために神に祈り、悲しむ人の傍らに立とうとするラナの姿には、武力ではなく援助と協力を求める世界の人々の思いが重なります。「ベルリン・天使の詩」(87)の巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が、どうしても撮りたいと願い、わずか16日間で一気に撮影した作品です。

物語

20歳のラナ(ミシェル・ウィリアムズ)は、病気で亡くなった母の手紙を、伯父(おじ)ポール(ジョン・ディール)に届けるため、 イスラエルのヨルダン川西岸からロサンゼルスにやってきた。ラナはアメリカで生まれたが、アフリカで、その後イスラエルで育った。ポールはベトナム戦争の帰還兵だが、彼にとって戦争はまだ続いており、一人でアメリカ国をまもろうと、監視カメラをつけた車に乗り、あやしい光景や人物を見つけると、その状況をテープに録音している。「俺がこの国を守らなければ。テロリストたちがこの国を攻めてくる。できるだけ多くの人を救わなくては」と、町の監視を怠らない。

ラナは、ホームレスたちが路上で寝起きしている地域にある伝道所の宿泊施設に泊まりながら、伯父ポールを探しはじめる。

ある日、ポールは不信な段ボール箱を持つ男を見つけ、後を追う。その箱には、“ボラックス”と書かれていた。その夜、ポールが町に出て監視カメラを回しはじめると、事件が起きた。路上生活者の地域に入ってきた車が、突然、路上にいる人に向かって火炎瓶を投げ、他の人に向けて銃を発して逃げ去ったのだ。ポールのカメラには、その一部始終が映っていた。

撃たれた男は、ポールが昼間、後を追いかけたアラブ人だった。アラブ人は、「トロナ」と言って息を引き取る。音を聞いて伝道所の人々が外へ出てきて、彼の遺体を伝道所に運んだ。ラナは、遺体を見て泣き崩れた。そこへポールがやってきて「お母さん、そっくりだな」と声をかける。ラナは、探していた伯父ポールにやっと会えたのだった。

亡くなった被害者の家族を探してあげたいと願うラナは、ポールに頼んで遺体を車でトロナまで運んでもらう。トロナには、被害者の兄が住んでいるのだった。トロナまでの290kmの旅がはじまった。

車の中で、ポールはベトナム戦争の話をする。レナは、なぜママの手紙を無視していたののかと尋ねる。

砂漠の中を走り、2人はトロナに着く。ラナは、被害者の兄の家を探しに行く。ポールは、遺体を教会に運んだ後、不審な2人組が“ボラックス”と書かれた箱をたくさん車に乗せて走り去るのを目撃する。しばらく走ったところで止まると、2人は段ボールを抱えて一軒の家に入っていった。ポールはそこがテロリストたちのアジトだと思い、完全武装し、銃を構えてその家に潜入する。しかし、家の中に居たのは、寝たきりの高齢の女性だった。やっとアジトを見つけたと思っていたポールは、あっけにとられる。

ランド・オブ・プレンティ ランド・オブ・プレンティ

ラナと合流したポールは、被害者の兄から、弟が命を狙われるような人ではないことを聞く。そのとき、犯人が捕まり、ドラッグを飲んでいた少年であったという連絡が入る。 「俺は何を追っていたのか、何がなんだかわからない」とポールは語る。

「無力なわれらに救いと平安を」と祈るレナに、ポールはベトナムの戦地でのつらい出来事や、9.11のときの飛行機がビルに衝突する映像を見て受けたショックを語る。しかし、これまで自分が求めてきたことが無駄だったことを悟ったポールは、ニューヨークへと車を走らせる。

 

9.11の出来事に対してアメリカの視点しか持っていなかったポールは、イスラエルでは、あの出来事を喜んでいた人がいたということをレナから知らされます。「俺は何をやっていたのか」と思いはじめてから、ポールの表情がどんどん優しくなっていきます。そして、見ようとしなかったレナの母親からの手紙を読みます。レナの存在によって、ポールは忘れていた人間の心を取り戻していきます。

この映画には、いろいろなことがシンボリックに表現されています。何回も見ていくうちに、さらにいろいろな発見がありそうです。マイケル・ムーア監督の「華氏9.11」とはまた違ったアプローチで、現代のアメリカの矛盾を映し出しています。

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