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 ヴェニスの商人

2005年11月

THE MERCHANTO OF VENICE

ヴェニスの商人

  • 監督:マイケル・ラドフォード、
  • 原作:ウィリアム・シェイクスピア
  • 音楽:トム&ナクト
  • 主演:アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、
          ジョセフ・ファインズ、リン・コ リンズ
  • 配給:アスミック・エース

2004年 アメリカ・イタリア・ルクセンブルグ・イギリス合作映画 130分

  • 2004年ヴェネチア国際映画祭特別招待作品

なんと重厚な映画でしょう。シェイクスピアの作品が持っていることばの魅力も十分に引きだされ、知恵の駆け引きも息をのみます。お金と快楽におぼれる人々、知恵と真実の愛を求める若い女性たち、人をさげすむことで自分を優位に立たせている人々、お金がすべてと思っている抑圧されている人々……。さまざまな価値観を持っている登場人物によって、映画を見る者に、生きるとはどういうことか、幸せとはどういう生き方なのかを問いかけてきます。

物語

16世紀、ヨーロッパの貿易で栄えた運河の街、イタリアのヴェニスには、キリスト教徒から差別されているユダヤ人たちがいた。彼らは、高利貸としてゲットーの中に住まわされ、そこから外に出るときには、赤い帽子をかぶることが義務づけられていた。ある日、赤い帽子をかぶった高利貸のシャイロック(アル・パチーノ)は、貿易商のアントーニオ(ジェレミー・アイアンズ)を見つけ声をかけるが、アントーニオからつばをかけられ侮辱される。しかし、アントーニオに反発することはできなかった。

この町に、放蕩生活に酔いしれ、財産をなくしたバッサーニオ(ジョセフ・フィアンズ)という青年がいた。彼は、ベルモントに住む美しい女性相続人ポーシャ(リン・コリンズ)に求婚するために、彼女の館まで行くための費用を借りようと、親友であるアントーニオのもとを訪れる。しかし、アントーニオの財産は、航海している船の上にあり、手元には貸すためのお金がなかった。そこでアントーニオは、自分が保証人になるからと、高利貸のシャイロックのもとへ行くよう勧める。

シャイロックに、アントーニオへの仕返しをするチャンスがやってきた。シャイロックは、多額のお金を無利子でバッサーニオに貸すが、条件をつけた。それは「3か月以内に返金できなかった場合は、アントーニオの肉1ポンドを引き換えとしてもらう」というものだった。これを聞いたアントーニオは驚くが、船は期限内に着くと信じ、バッサーリオのためにこの条件を受ける。

シャイロックには、愛するひとり娘のジェシカがいた。ある夜、シャイロックが会合に出るために家を留守にした。日ごろから父親の圧力に反発を感じていたジェシカは、父のいない間に、船で迎えに着た恋人のもとへと行ってしまう。恋人は、バッサーニオの仲間だった。ジェシカの手の中には、家中の宝石があった。外出から戻ったシャイロックは、娘と財産を失ったことを哀しむ。彼の嘆きは、その夜、ヴェニスの町中に響いた。

バッサーニオ一行は、ベルモントに到着した。ポーシャは、それまで各国からやってくる求婚者たちが気に入らなかったが、若くてハンサムなバッサーニオを、一目で気に入ってしまう。夫となる資格を得るための「箱選び」の試練でも、それまで、だれひとり正しい箱を選ばなかったが、ポーシャの思いが通じたのか、バッサーニオは正しい箱を選び、二人はめでたく結婚することになる。

美しい妻と財産を手に入れ、喜びにひたっているバッサーリオに、驚くべき知らせが届く。アントーニオの荷物を積んだ船がすべて難破し、返済することができなくなったのだ。シャイロックは、約束どおりアントーニオの肉1ポンドを要求しており、その正当性を決める裁判が開かれるというのだ。

夫の窮地を知ったポーシャは、ヴェニスに出発する前に急きょ結婚式を上げ、バッサーニオに借金の2倍の額のお金を渡し旅立たせる。

裁判では、シャイロックが、今までの侮辱を受けた恨みと、娘を失った哀しみで、キリスト教徒への憎しみを深めていた。裁判官たちの「慈悲を」ということばにも耳をかさず、アントーニオの肉を求めた。アントーニオは窮地に立たされていた。そこへ、若い法学博士がやってきた。実は、この博士、心配して夫を追ってきたポーシャだった。果たしてこの博士は、アントーニオを救うことができるのだろうか。

 

中世の絵画から抜け出てきたような映画です。美しき女性相続人のポーシャ役のシッン・コリンズが、とてもカッコいい女性を演じています。裁判の場面でのシャイロックとポーシャのやり取りは、すごい迫力です。その二人のかけひきの結果に、身を任せる形になってしまったアンントーニオ。いったいどうなるのか、とハラハラします。ポーシャ扮する博士のことばで、一転して窮地に陥れられるシャイロックを演じるアル・パチーノは、演技とはこういうものかと思うような繊細な表現で、「さすが名優!」という感じでした。キリスト教徒から差別され、愛する娘には逃げられ、さらに裁判で負けて財産を失ってしまう、そんなシャイロックが、なんとも哀れで仕方ありません。アントーニオたちの勝利を全面的に喜べないところがあります。富めるものはますます富み、しいたげられるものは、さらにすべてを失ってしまう。シェイクスピアは、世の中とはそんな理不尽なものだと言いたかったのでしょうか。奥の深い作品です。

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