お薦めシネマ
ある子供
2005年12月
The Child
- 監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
- 原題:L'Enfant
- 出演:ジェレミー・レニエ、デボラ・フランソワ、ジェレミー・スガール
- 配給:ビターズ・エンド
2005年 ベルギー=フランス映画 95分
- 文部科学省特別選定 青年向、成人向
- 2005年カンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞
20歳と18歳というカップル。まだまだ遊びたくて、悪さもしたくて、自分の将来をどう生きるかなんて考えてもいない。大人になりきっていない、若い二人。一緒に生活しているこの二人に子供ができました。女性の方はしっかりと母親になっていますが、男性には父親の自覚がありません。しかし、ある事件をきっかけに、男性にも父親としての自覚が生まれていきます。学校に行くでもなく、仕事につくでもなく、その日その日をあぶなっかしい生き方で、フラフラと生きている若者を追いながら、子供から大人になっていくことの意味を問いかけてくる作品です。
「ロゼッタ」(99)でカンヌ国際映画祭パルムドール大賞を、「息子のまなざし」(02)で、カンヌ国際映画祭主演男優賞(オリヴィエ・グルメ)とエキュメニック賞特別賞を受賞したベルギーの兄弟監督、ジャン=ピエールとリュック・ダルデンヌ監督の映画です。
物語
17歳のソニア(デボラ・フランソワ) は、自分のアパートで20歳のブリュノ(ジェレミー・レニエ)と一緒に暮らしている。二人の間に子供ができた。病院で子供を出産したソニアが退院してアパートに戻ってみると、部屋には見知らぬカップルがいた。ブリュノがお金ほしさに、部屋を貸したようだ。ブリュノは、年下の少年スティーブ(ジェレミー・スガール)たちを使って盗みを働き、それを売って生活していた。
ソニアはブリュノを探し出して赤ん坊を見せるが、ブリュノはまったく興味を示さなかった。自分たちの部屋の帰れない二人は、その夜、簡易宿泊所に止まる。夜中に宿泊所を抜け出したブリュノは、盗品を売り、そのお金で乳母車を買い、車も借りる。翌日二人はドライブにでかけ、久しぶりに子供のように戯れる。
翌朝、二人は役所に出生届をだし、ソニアは赤ん坊をジミーと名付けた。ブリュノはソニアに、自分とおそろいの革ジャンを買う。ブリュノにきちんとした仕事についてほしいと願っているソニアは、ブリュノを職業斡旋所につれていく。しかし、長蛇の列ができているのを見たブリュノはいやになり、乳母車にジミ?乗せて散歩に出かける。乳母車を押しながら、売品を買ってくれた女性が「子供も売れる」と言っていたのを思い出し、彼女に連絡を取る。
戻ってきたブリュノが空っぽの乳母車を押しているのを見たソニアは、顔色を変えてブリュノを問い詰めるが、「子供は売った。またできるさ」という言葉を聞いて気を失ってしまう。ソニアを病院に運んだブリュノは、ジミーを取り戻しにでかける。
なんとか取り戻したジミーをかかえ、ソニアは病院から家に戻るが、ブリュノに対してはひと言も口を開かない。ジミーをきつく抱いたまま、哺乳びんをあたため、もくもくと授乳の準備をする。どうしていいのかわからないブリュノは、ソニアに言葉をかけるが、とうとう乳母車と一緒に、家から追い出されてしまう。
ブリュノは、乳母車とソニアの革ジャンを売る。しかし、そのお金も、チンピラたちに盗まれてしまう。一文無しになったブリュノは、スティーブを呼び出し、以前から目を付けていた女性のカバンをひったくる。二人はスクーターに乗って逃げるが、車がいつまでも追いかけてくる。行き止まりで逃げ場を失った二人は、川にもぐり、身を潜める。しかし、スティーブの体に、真冬の水は冷たすぎた。やっとの思いで追っ手をくらましたが、ブリュノがスクーターを取りに行ったすきに警察がやってきて、スティーブが捕らえられてしまう。物陰から、スティーブが連れていかれるのを見たブリュノは、スクーターを押してソニアの部屋に帰ってくる。しかし、そこにソニアはいなかった。
「ある子供」は、「息子のまなざし」を撮影しているときに、乳母車を乱暴に押している若い母親を見かけ、その赤ちゃんの父親はどんな人なのだろうと想像していって作品になったそうです。「息子のまなざし」と同じように手持ちのカメラで人物を追っていっているので、ドキュメンタリー作品のような迫力があります。セリフは少ないのですが、登場人物たちが、今何を思っているのだろうか、何を感じているのだろうかというところに、見る者の心が向かいます。