お薦めシネマ
雪に願うこと
2006年5月
- 監督:根岸吉太郎
- 原作:鳴海章『輓馬』(文藝春秋社)
- 脚本:加藤正人
- 出演:伊勢谷友介、佐藤浩市、小泉今日子、吹石一恵
- 配給:ビターズエンド
2005年 日本映画 112分
- 第18回東京国際映画祭グランプリ、監督賞、最優秀男優賞、観客賞受賞
北海道、帯広の寒い冬。凍った大地が朝の太陽に照らされ、白い湯気を立ち上がらせている。人の息も馬の息も白く光っている。重い石かせを乗せたソリを引っ張る馬が障害物である坂を上ろうとしている。しかし、ソリが重くて坂を上ることができない。ソリに乗った騎手は、容赦なくムチで馬の背をたたくが、ソリはずるずると坂をさがっていく。容赦なくムチが降られる。レースの距離は200m。忍耐力と持久力が試される馬は、足が短い農耕馬で「輓馬(ばんば)」と呼ばれており、このレースは「ばんえい競技」という名をつけられている。
真冬のばんえい競馬場に、スーツにコート姿の青年が姿を現した。馬券ははずれ、有り金をはたいてしまった。一文無しになった彼は、厩舎を訪ねる。青年の名は学(伊勢谷友介)。両親はすでになく、故郷を捨てて東京の大学に行った彼のために、厩舎の持ち主である兄の威夫(佐藤浩市)が親代わりとなって彼の学費を出してくれた。しかし、学は長い間連絡をしなかった。田舎くさい母を恥じて死んだといつわり、兄だけ結婚式に呼んだが、その後、連絡を絶っていた。
しかし今、結婚にも失敗し、一流企業を退職した後に興した事業にも失敗し、生まれ育った土地に戻ってきたのだ。
なぜ戻ってきたのか。ひと言も話そうとしない弟を、威夫は厳しいまなざしで見つめる。何かあったことを感じ取った威夫は、弟としてではなく見習いとして厩舎で働くよう促す。
厩舎には、馬の世話をする男たちや、働きながら騎手を目指す男たちの他に、威夫に頼まれてかよっている賄いの晴子(小泉今日子)がいた。また、牧恵(吹石一恵)が、女性騎手として厳しい訓練を受けていた。牧恵の父は有名な騎手だったが、借金を抱えて失踪中だった。
学は、過去から逃れるかのように輓馬の世話に打ち込んでいった。ひたむきに働く学を見た威夫は、ある日一頭の馬の世話を学に任せる。その馬の名はウンリュウと言い、成績が悪ければ馬肉にされる運命にあった。
凍てつく朝の、輝く日差しの中で行われる、輓馬の厳しい訓練。厩舎の人々と騎手が一体となってのぞむレース。わざわざ重い荷を引いて、なぜ、きつい坂を上らなければならないのか。人生から逃げていた青年は、ばんえい競技にかかわる人々と接しながら、ふたたび自分の人生に立ち向かっていくエネルギーを得ていきます。馬を中心として暮らしている人々の思いをとおして描かれていく感動のドラマです。