お薦めシネマ
フラガール
2006年9月
Hula girl
- 監督:李相日
- 脚本:李相日、羽原大介
- 出演:松雪泰子、豊川悦司、蒼井優、富司純子、
山崎静代(南海キャンディーズ・しずちゃん)、岸部一徳 - 音楽:ジェイク・シマブクロ
- 配給:シネカノン
2006年 日本映画 120分
上野駅からJR常磐線で約2時間、福島県いわき市に「スパリゾートハワイアンズ」という一大温泉施設があります。かつては「常磐ハワイアンセンター」と呼ばれていました。面積約13万㎡という広大な敷地の中に、プールや温泉など5つのテーマパークがあり、ショッピング、食事、宿泊、ハワイアンのショーが楽しめて、一日では遊び尽くすことができないほどです。
かつてここは、炭坑の町でした。昭和40年、時代の変化がこの町にも押し寄せていました。エネルギー資源が石炭から石油に変わり、各地にある炭坑も閉山に追い込まれていました。この炭坑も落盤事故が多く、存亡の危機を迎えていました。会社の経営を救うために、新規事業を立ち上げる計画が持ち上がりました。レジャー施設「常磐ハワイアンセンター」の構想です。そのためには、社員一丸となった総合的な準備が必要でした。「フラガール」は、炭坑町の人々が自分たちの手で「常磐ハワイアンセンター」を起こしていった、家族愛に満ちた涙と感動の物語です。
物語
紀美子(蒼井優)は18歳。祖父も父も炭坑作業員で、そして母(富司純子)も兄(豊川悦司)も炭坑で働いていました。父が落盤事故で亡くなってからは、母と兄の3人でつつましく暮らしていました。
ある日、学校の帰りに、紀美子と親友の早苗は、「求む、ハワイアンダンサー」という張り紙を目にしました。「この炭坑の町で、つめを黒くして一生を終わらせたくない。もっと希望を持って、自分の人生は自分で決めて生きていきたい」と思っていた紀美子は、熱心な早苗に誘われて、募集に応募することにしました。母と兄は、猛反対でした。会場に集まった女性たちは、初めて見たフラダンスの映像におどろき、「ヘソ、丸見えでねえか」と多くの者が帰ってしまいました。残ったのは紀美子と早苗、会社で庶務をしていて子どもがいる初子、父親に連れられてきた旅館の娘の小百合(山崎静代)だけでした。
紀美子たちにフラダンスを教えるため、ハワイアンセンターの部長(岸部一徳)が東京から招いたのは、ハワイでフラダンスを習いSKD(松竹歌劇団)出身という平山まどか(松雪泰子)でした。借金取りから逃げるように都会から田舎にやってきたまどかは、不便な田舎暮らしに文句をいい、生きることに投げやりになっていました。素人で田舎娘の紀美子たちにフラダンスを教える意欲もありませんでした。しかし、練習会場となっている元校舎で、一人フラダンスを踊っているまどかの踊りを見た紀美子と早苗は、自分もあのように踊りたいと、熱心に教えを請うのでした。
一方、会社は、ハワイアンセンターの設立の準備を進めていましたが、炭坑夫たちからは、猛反対にあっていました。しかし、紀美子たちが一つになって、フラダンスを自分のものにしていく熱心な姿が、炭坑町の人々の気持ちを変えてきました。
ハワイアンセンターで呼び物となるハワイアンショーを踊る紀美子たちの他にも、ハワイアンセンターの中に植える椰子の木を寒さから守るために奔走する職員たち、ホテルのフロント係、バンドマンたちが、ハワイアンセンターのために必死で働きました。そしてついにハワイアンセンターオープンの日を迎えたのでした。ハワイアンセンターのオープニングのシーンでは、迫力ある踊りに圧倒されてしまいました。地域の活性化のため、会社の存続のため、家族が生きるため、何よりも自分自身が生き生きと人生を生きるために、みなが一つになったのでした。
映画「フラガール」の完成披露試写会のときに、松雪泰子、蒼井優、山崎静代(南海キャンディーズ・しずちゃん)など出演者たちが、特訓を受けたフラダンスを披露してくれました。すっかり板についたフラダンスに、「こんなきれいなものを見せていただいてありがとう!」と、感動してしまいました。ここまで踊れるようになるには、俳優さんたちのなみなみならぬ努力があったと思います。それは、主人公の少女たちが体験したフラダンスの特訓でもありました。みなが一つになって力をあわせ、一つの作品(映画であり、ハワイアンセンターであり)を作り上げていく、地域の生き残りを賭けた“常磐ハワイアンセンター”の誕生物語。久しぶりに気持ちよく涙を流し、「感動した!」と大きな声で言いたくなる映画でした。
完成披露試写会のステージ | 完成披露試写会で、左端が李相日監督 |