home>シスターのお薦め>お薦めシネマ>子宮の記憶

お薦めシネマ

バックナンバー

 子宮の記憶

2007年1月

–ここにあなたがいる–

子宮の記憶

  • 監督:若松節朗
  •   
  • 原作:藤田宜永「子宮の記憶/ここにあなたがいる」
                (講談社文庫)
  •   
  • 脚本:神山由美子
  •   
  • 音楽監督:S.E.N.S.
  •   
  • 出演:松雪泰子、柄本佑、野村佑香、中村映里子、寺島進、
         余貴美子
  •   
  • 配給:トルネード・フィルム

2006年 日本映画 115分


黒木和雄監督の戦争レクイエム3部作の2番目の作品「美しい夏キリシマ」で、中学生の主人公役でデビューした柄本佑(えもとたすく)君が、ちょっぴり大人になって登場しています。木訥(ぼくとつ)としていながらも独特の存在感が光る佑君、今回の作品では、母親を求めてさまよう17歳を演じます。

物語

裕福な家庭で、幸せそうに育っている17歳の真人(柄本佑)。しかし、父親は仕事で忙しく世間体を気にし、母親は真人の幼かったころのビデオを見続け、今の真人に関わろうとしていない。そんな家庭の中で、真人は両親から愛されていると感じることができないでいた。真人は、生まれてすぐ、病院の新生児室から誘拐されたことがある。新聞ざたにもなったこの事件を知った真人は、自分を誘拐した人が本当の母親ではないかと思い、彼女を捜す旅に出る。

その人の名は、愛子。今は沖縄に住んでいるという。バイクを走らせた真人は、沖縄に渡った。愛子は、町から離れた静かな海岸で、小さな食堂を切り盛りしていた。どこかうつろで寂しそうだった。愛子の夫は入院しており、義理の娘(野村佑香)は、若い母親に反発して家を出ていた。

真人は、愛子が誘拐したとき自分に付けてくれた名前・良介を名乗り、アルバイトはいらないという愛子を説得し、住み込みで食堂のアルバイトすることにした。夏の忙しい食堂では、真人の存在はありがたく、一生懸命働く真人の姿に愛子は次第に心をゆるしていくようになった。

やがて真人の存在が、愛子にとって支えとなっていく。真人は、沖縄の生活にすっかりうちとけていた。しかし、愛子の夫は、二人の関係を疑って見ていた。

そんなある日、真人の友達の沙代(中村映里子)が沖縄にやってきた。沙代は妊娠しており、恋人とのことで悩んでいた。真人と夜を過ごした沙代は東京に帰ると行って真人の元を去っていったが、その夜のエーサーの祭りで人々が盛り上がっている中、海岸で遺体となって発見される。

 

この映画の登場人物は、みなどこかにゆがみを持っています。本心を押さえ、素直に感じることを隠して、自分の心の中に築いた固い城壁の中に住んでいるようです。しかし、そのもっと奥では、人から関わってほしい、愛してほしいと思っているのかもしれません。最近起きている悲惨な殺人事件も、こんなかかわりの中で生きていたのかもしれないと思うと、これは、現代を象徴しているような作品に思えてきました。多かれ少なかれ、人間というものは、どこかはそのようにしなくては生きていけないかもしれません。

新しい生命は愛されることを求めています。新しい生命を宿した人も、宿した生命を愛しています。愛子は、良介と過ごした40日間の幸せだった記憶を支えにして、その後の人生を生きています。母親の愛を求める真人の一途な思いが、愛子の心を動かしていきます。

登場人物、一人ひとりが、愛を求めている存在として見えてきます。「しっかりと抱きしめてほしい」、人はいつも他者からの愛を求めているのかもしれません。親は子を思い、子は親を思う。愛し、愛されることが第一の喜びなのだ、人間とはそういう存在なのだ……、そんな思いを静かに描いた作品です。きれいな沖縄の海と光、そしてS.E.N.S.の音楽が、切ない母と子の思いをやさしく包んでいます。


▲ページのトップへ