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 筆子その愛

2007年2月

筆子その愛

  • 監督:山田火砂子
  •   
  • 脚本:高田宏治
  •   
  • 出演:常磐貴子、市川笑也、渡辺梓、加藤剛
  •   
  • ナレーション:市原悦子
  •   
  • 製作:現代プロダクション

2006年 日本映画 119分


「石井のおとうさんありがとう」に続いて、山田火砂子監督が取り上げた日本の偉人は、“障害児教育の母”と呼ばれている石井筆子です。山田監督は、同じ障害を持つ子の親として、強く共感することがあったのでしょう。

物語

映画は、現在も滝乃川学園(東京都国立市)に残る一台のピアノから始まります。そのピアノには、天使のエンブレムが着いています。ピアノは、映画の主人公である石井筆子の嫁入り道具の一つで、生涯愛用していたものでした。

石井筆子(旧姓・渡邉 常磐貴子)は、長崎県大村藩の藩士(加藤剛)の娘として生まれました。幼いとき、海岸で見た、キリシタンたちの捕らわれの姿が、生涯、筆子の目に残っていました。なに不自由なく育った筆子は、フランスに留学し、帰国後はその美しさと知性から“鹿鳴館の花”と呼ばれ華やかな日々を送りました。津田梅子とともに、日本の女性教育に献身していきます。

しかし、最初の結婚で生まれた子は、長女が知的障害児であり、次女は生後10か月で亡くなり、三女も障害児でした。さらに、子どもたちを守ってくれたやさしい夫も結核で亡くなり、筆子は絶望のどん底に突き落とされます。ちやほやとしていた人も、さげすみの目で見るようになります。筆子を支えてくれたのは、我が子の素直な心と、幼いときから筆子の世話をしてくれたサト(渡辺梓)でした。

津田梅子らの助けを得ながら、教師としてなんとか生活をつないでいた筆子は、障害者教育の研究のためにアメリカに留学した石井亮一(市川笑也)が開いた「滝乃川学園」の存在を知るようになります。手元から離したことのなかった長女を滝乃川学園にあずける決心をし、親に頼るのではなく、仲間とともに生きていくことを学ばせます。

石井亮一の子どもたちへの愛と、教育方針に心を打たれた筆子は、やがて志を一つにするようになり、石井と再婚して活動を支えていきます。経済的な苦労、子どもたちの命を奪った火事や、世界大戦時の子どもたちの徴兵、戦時下の障害者への差別、石井の死など、いくつもの難局に接しますが、筆子は石井の志を受け継いで障害児のために一生を捧げます。

 

生まれた子どもがみな障害児という苦しい状況の中で、自分の子の救いだけでなく、障害を持つ子どもたちの世話をした筆子。石井十次もそうでしたし、エリザベス・サンダースホームの澤田美喜さんもそうですが、大人から見放された子どもたちを救ったのは、キリスト教精神を持っている彼らでした。日本では、なかなか根付かないのが、このような子どもたちへの愛の精神です。障害児たちを差別から守り、自分たちの手で生きていくことができるよう、自立の道を教えます。その面からも、彼らに学ぶことは大きいと思います。

歌舞伎の女形で美しい姿を表現している市川笑也さんが、誠実な石井亮一をよく表現していて適役です。必死に子どもたちを守る筆子の姿から、親の役割が見えてきます。


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