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 陸に上がった軍艦

2007年8月

オカニアガッタグンカン

陸に上がった軍艦

  • 監督:山本保博
  • 原作・脚本・証言:新藤兼人
  • 語り:大竹しのぶ
  • 出演:蟹江一平、滝藤賢一、三浦影虎、鈴木雄一郎、
        友松タケホ、藤田正則
  • 配給:パンドラ

2007年 日本映画 95分


日本での最高齢の監督である新藤兼人監督が、自身の理不尽な軍隊生活をとおして、戦争を見つめたもので、「今、伝えておきたいこと」として思いを込めて制作した、証言者として登場する新藤監督を追うドキュメンタリーの部分と、その証言に基づいた再現ドラマで構成されています。そこには、理不尽な軍隊での生活が描かれています。一年半という短い期間の軍隊生活でしたが、そこには、説明のつかないことがいくつもありました。

当時、松竹大船脚本部でシナリオライターとして働いていた新藤兼人監督は、1944年の春に召集令状を受けました。そのときこう思ったそうです。「ああ、シナリオが、おしまいだ。なんにもしないうちに、鉄砲の弾に当たって死ぬのか……」と。広島県呉にあった海兵団に二等水平として入隊し、その後、宝塚海軍航空隊に配属されました。兵舎があったのは、今の宝塚歌劇場です。映画「陸に上がった軍艦」は、入隊してから終戦までの、一年半足らずの軍隊生活の日々を思い起こしています。

入隊したとき新藤監督は32歳でした。赤紙を受けて入隊した仲間は、30歳前後の二等兵たち。今まで社会の中で、一人前の大人として仕事をし、生活してきた彼らに対し、彼らの上官に当たるのは、志願兵として中学から入隊した18歳くらいの一等兵でした。いろいろと理不尽なことがありました。その一つが「直心棒(じきしんぼう)」というものです。「海軍精神をケツから入れてやる! 尻を出せ!」と言われ、上官の前にお尻を突き出すと、上官は直心棒で思い切り叩くのです。大の大人がうなり声を上げて前につんのめり倒れてしまうほどの痛さです。なぜ叩かれるのかわかりません。しかし、上官に反抗することは許されません。戦争とはそういうものです。

休みの日、妻や子と懐かしく出会い、妻の手作りの弁当を仲良く食べているところに上官が通りました。上官が近くに来たことに気づかずに敬礼のあいさつをしなかったところ、子どもの目の前で激しく殴られます。鉄兜が紛失したときは、犯人をさがすために拷問が続きました。その結果、心を失ってしまった仲間も出ました。沖縄戦で敗れ、本土決戦に備えた訓練が行われました。木で作った軍艦を敵艦に見立てて、そこへ板切れに見立てた爆弾を投げ込む訓練をしていきます。「こんな空しいことを……」と感じても、彼らは汗まみれになってまじめに何度も繰り返して訓練しました。

理不尽がまかり通る世界の中で生きていると、人間は動物的になっていきます。個人には、家庭には大きなことが起きているのですが、体制から見ると、個人も家庭も小さなことになります。

そして戦争は突然終わりました。すると兵舎からは、将校も下士官もいなくなりました。彼らは、兵士たちからのリンチを恐れたのです。それまで自分たちがしてきたことの仕返しをされると思ったのでしょう。しかし兵士たちは、早く家に帰りたい、自由になりたいという気持ちでいっぱいでした。

戦争とはいったい何なのか、そのとき人はどういう行動を取るのか。新藤兼人監督のメッセージを、お受け取りください。


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