お薦めシネマ
長江哀歌
2007年8月
Still Life
- 監督・脚本:ジャ・ジャンクー
- 音楽:リン・チャン(林強)
- 出演:チャオ・タオ(趙涛)、ハン・サンミン(韓三明)、
ワン・ホンウェイ(王宏偉) - 配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
2006年 中国映画 113分
- 2006年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞
- 2006年アジアン・フィルム・アワード最優秀監督賞受賞
中国を東西に横断して流れる雄大な川・長江。その長さは6300kmにおよび、アジア最長の大河です。古くから水墨画に描かれていた景勝の地が、長江の三峡です。しかし、今、この美しい風景の地で、巨大なダム建設が進められています。ダムは、豪雨のとき下流に洪水の被害をもたらすため、また、電力確保のために、孫文の時代からの夢でした。ダムは、2009年の完成を目指して着々と進められています。映画は、山西省からダムに沈む古都・奉節(フォンジェ)にやってきた2人の男女を追いながら、三峡の姿を映し出していきます。
炭坑夫のハン・サンミン(韓三明)は、16年前に故郷に帰った妻と娘にあうために奉節にやってきました。持っていた紙切れに書かれた住所を尋ねましたが、そこはすでにダムでできた湖の下になっていました。手がかりを失ったハン・サンミンは、ビルの解体工事の労働をしながら、妻子を捜すことにします。
看護婦のシェン・ホン(沈紅 チャオ・タオ)は、2年前に働きに出たまま音信不通になっている夫を捜しにやって来ました。夫の軍隊時代の友人であるワン・トンミン(王東明 ワン・ホンウェイ)が、シェン・ホンを心配して一緒に探してくれます。
ハン・サンミンとシェン・ホンの家族捜しに、奉節で生きるいろいろな立場の人がかかわってきます。そんな彼らの生活から、今の中国が見えてきます。
映画を見ながら、黒沢明監督の「どですかでん」や、小栗康平監督の「泥の川」を思い出していました。繁栄の裏側で生きる人々の暮らしがありのままに描かれていて、哀愁を感じます。
北京オリンピックを控えた中国は、至るところで開発が進んでいます。映画は言葉では何も訴えてはいませんが、監督の思いは伝わってきます。市井の人々の暮らしと土地を淡々と描いた「長江哀歌」は、後世に残したい大切な作品になると思います。