お薦めシネマ
転々
2007年11月
- 監督・脚本:三木聡
- 原作:「転々」藤田宜永(新潮文庫刊)
- 出演:オダギリ ジョー、三浦友和、小泉今日子、
吉高由里子、岩松了、ふせえり、松重 豊 - 配給:スタイルジャム
2007年 日本 101分
お天気のよい日は、気持ちも軽くなって外を歩いてみたくなりますね。反対に、なんとなく気が重い日も、気分転換に外を歩いてみようかと思います。「ねえ、一緒に散歩に行かない?」気の合う人ととりとめのない会話をしながら歩くことは、新鮮なひと時となるでしょう。しかし、この映画の主人公を散歩に誘った相手は……、なんと借金取りでした。一緒にはいたくない相手です。ところが、一緒に歩いてくれたら借金は帳消しにする、さらに100万円をくれるというのです。この言葉、信じていいのでしょうか?
物語
大学8年になる竹村文哉(オダギリジョー)は、借金取りの福原(三浦友和)に追われていた。アパートに押しかけてきて、3日後が最終期限だと告げられる。どうすればいいのか……、あてはない。ところが、再びやって来た福原は、借金を帳消しにしてやろうと切り出した。しかし条件があった。福原の散歩につきあうことだ。それも福原が気がすむまでつきあうことだという。驚いたのはこれだけではない、最後まで散歩につきあったら、さらに報酬として100万円を出すというのだ。うさんくささがないわけではないが、選択の余地はなかった。
井の頭公園で福原と落ち合った文哉は、彼の後をトボトボと歩き始めた。目的地は霞ヶ関だという。「えっ、なぜ、霞ヶ関なの?」福原は妻を殺したので、警視庁に自首するというのだ。「死体が発見される前に自首しないと、自首とは認められませんよ」と伝えるが、福原は全く意に介せず、妻への思いを語り始めた。
そのころ、福原の妻が勤めているスーパーでは、部長(松重 豊)や事務員たち(岩松了、ふせえり)が、無断欠勤している福原の妻を心配し、電話をかけようか、尋ねてみようかと相談しあっていた。しかし、行動を起こそうとすると邪魔が入り、一日が過ぎていった。
福原は、文哉のことも尋ね、足を伸ばして文哉の育ったところにも行ってみようというあちらに歩き、こちらを訪ね、宿屋に泊まったりして4日目を迎えた。その日、福原は麻紀子(小泉今日子)という女性の家に向かった。彼女とはかつて疑似家族を演じたことがあるという。そこで、福原は、死ぬ前の食べたい食事として、麻紀子にカレーライスを作ってもらう。麻紀子の姪のふふみ(吉高由里子)も加わって食卓を囲むと、福原と麻紀子は突然、文哉を自分たちの息子と設定し疑似家族を始めた。こうして家族4人の生活が始まった。家族の味を知らない福原と麻紀子が夫婦になりきっていることにとまどう文哉は、“家族ごっこ”をバカにしながらも、胸の奥に、今まで味わったことのない思いを感じていた。
どぎついヘアースタイルの三浦友和とオダギリジョー。かなり濃いキャラクターです。しかしある事件をきっかけにして共に歩くことによって、自分の生きて来た道を振り返る時を過ごすことになります。家族とともに生きてきた今までの時間を、散歩しながら、じっくりと思い出していきます。「散歩」は、日ごろの時の流れとは全く違う別の歩みを体験させてくれます。毎日の生活の中では見過ごしていることを考えたり感じたりするために、気づく空間を与えてくれるのです。
深夜のちょっと変わったドラマ「時効警察」で人気を博した三木聡監督とオダギリジョーの組み合わせに、警官仲間の岩松了、ふせえりが参加して、あのとぼけた味を出しています。思わず吹き出してしまう登場人物たちのテンポのよいセリフの中にある、しみじみとした思いをお楽しみください。