お薦めシネマ
ノーカントリー
2008年3月
NO COUNTRY
- 監督・脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
- 原作:コーマック・マッカーシー(『血と暴力の国』扶桑社刊)
- 出演:トミー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、
ジョシュ・ブローリン、ケリー・マクドナルド - 音楽:カーター・パーウェル
- 配給:パラマウント ピクチャーズジャパン、ショーゲート
2007年 アメリカ映画 122分
- アカデミー賞 作品賞、監督賞、助演男優賞、脚本賞
- ゴールデン・グローブ賞 助演男優賞、脚本賞
- シカゴ映画批評家教会賞 作品賞、監督賞、助演男優賞、脚本賞
- ボストン映画批評家協会賞 作品賞、助演男優賞 など、
映画賞 計114賞受賞
たくさんの映画賞を受賞し、また多くの助演男優賞を受賞したハビエル・バルデムが来日して話題となった「ノーカントリー」。日本でも公開後、観客動員数がぐんぐんと伸びています。この映画は、悲惨な殺人現場で手に入れた大金を持って逃げる男を追う殺人鬼と、男の行方を心配して殺人鬼を追う町のベテラン保安官の追跡を描く、手に汗握るサスペンスです。この暴力映画が、アカデミー賞でも4部門を制覇するなど、どうしてこのようにたくさんの賞を受賞することができたのでしょう。この映画の何が、人々をひきつけているのでしょう。
物語
1980年代、メキシコの国境で狩猟していたベトナム帰還兵のモス(ジョシュ・ブローリン)は、帰り道の砂漠で、殺された男性たちがあたりに横たわる光景を見つける。死体の近くには、大量のヘロインを積んだトラックがあり、近くの木の根元には、大金の入ったカバンが残されていた。
モスはその大金を持ち帰ることによって、命を狙われることになる。身の危険を感じたモスは、妻・カーラ(ケリー・マクドナルド)に実家に帰るように命じ、大金とともに車に乗って逃げる。
その頃、モスが住んでいる町では、捕らえた男が保安官を絞め殺し逃げる事件が起きる。彼は、車を手に入れるため、酸素ボンベを左手に持ち、そこから延びるホースを右手に持って人の額に当て、エアガンのようにして車を運転している男性を殺した。また、食料を買うために入った店では、店主にコインの裏と表を当てさせ、当たらなかったら殺していた。この恐ろしい道具を持った男は、殺し屋のシガー(ハビエル・バルデム)。モスから金を取りもどすために雇われ、モスを追い始める。
砂漠の殺人現場にやってきた保安官エド(トミー・ジョーンズ)は、車の検査証が外されたモスの車と、無数の遺体から、モスが事件に巻き込まれ命が危ないのではないかと、彼を保護するためと殺人犯人を捕らえるために、彼らの行方を追う。
モーテルに泊まったモスは、仕掛けをしてカバンを隠すが、殺し屋シガーがすぐ近くに近づいていることを感じる。急いで別のホテルに移動するが、すぐシガーが来ていることを感じる。あることに気づいたモスは、カバンの底を調べてみる。果たしてそこには、発信機が付けられていた。ドアの下から漏れる廊下の明かりから、シガーがドアの向こうまで来ていることがわかる。そして、酸素ボンベのエアガンで、ドアのノブがぶち抜かれた。
見ているのが苦しくなる非情な殺人鬼。「こんな人間、ゆるせない!」と怒っても、彼には人間の心が通じません。獲物を見据えたら執拗に追いかけます。たまたま出会った人をも、コインの裏表で殺してしまいます。何のために殺すのか、まったく理解できません。きっと彼の中にもないのでしょう。なぜ、こんな人間になってしまったのか。映画は彼の人間性については表現していません。彼は、愛する妻がいるモスや人々を守る保安官エドのように、家族に結ばれていないし、土地にも結ばれていません。だれとも交わりがなく、身体もサイボーグのように屈強です。大出血の大けがをしても、ドラッグストアで薬や包帯を盗み、自分で処置してしまいます。
彼を見ていると、まるでアメリカのようだと思います。世界各国で起きているテロ事件もそうです。突然現れて、有無を言わせず人の命を奪っていきます。まさに、今の時代を象徴しているかのようです。保安官エドが言うように、どうしようもない暴力社会になってしまった。今の社会の危機を警告しているようです。